36. オンライン資料を効率的に管理する — E-Resource Management

 【35. オンライン資料の検索を強力にサポート — E-Research@Harvard】でご紹介したE-Resourceや電子ジャーナルについて、利用情報・契約情報などを全学レベルで管理しているのが、E-Resource Management System(ERM)というシステムです。ハーバード大学図書館のDigital Acquisitions and Collections Standing Committeeというところが管理しています。

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 ERM User Guide
 http://hul.harvard.edu/ois/systems/erm/erm-userguide/

 このシステムでは、E-Research@Harvardのサイトで提供されているオンライン資料、契約しているもの、フリーのものすべてについて、その購入・契約・提供についての情報を管理しています。学内各図書館のライブラリアンは、個々のオンライン資料について、利用条件、契約状態、利用期限や更新期限、トライアル・統計・SFX対応などについての情報、複数館による契約についての分担金・払戻金などの情報を閲覧することができます。これにより、例えば契約や手続きの進捗状況を追跡していったり、更新期限の迫ったデータベースについて注意を払ったり、更新する価値のあるものかどうかを継続して評価していったり、利用者に対して利用条件を案内したり、といったことが容易になります。webブラウザによって検索・閲覧が可能であることも、大きな利点であると言えるでしょう。
 また、ここに登録された各オンライン資料の書誌データ、URLなどに基づいて、E-Research@Harvardサイトその他からのリンクや、解説の表示などが、ユーザに提供されることになります。

 ハーバード大学におけるデータベースや電子ジャーナルなどのオンライン資料の契約について、かつてまだそれほど数の多くなかった頃には、専任のライブラリアン1名(および兼任のサポート3名)がすべてを引き受けていました。しかし、業務負荷が過剰に集中しすぎてしまい、その体制を継続することが困難になったといいます。また、契約データベースの支払いについても、各部局から分担金を徴収してプール金として確保するという、日本やアメリカでも多くの大学でとられている方法でした。が、ハーバード大学のような大規模大学では、分担の決定や交渉などのプロセスが複雑になってしまうこと、部局によって金銭事情(使用できる基金の出所・有無・規模、その基金の制限事項など)があまりにも違いすぎること、基金の送金にルール上の制約があったこと、価格の毎年の値上がりが激しすぎて学内合意を得るのが間に合わなくなってきたこと、などから、その方法には限界があったようです。
 現在では、各図書館や図書館群で必要と思われるオンライン資料の契約は、それぞれで手配をするということになっています。複数館での分担が適当であると判断された場合には、利用統計などによって、お互いに交渉・議論が行なわれることもあり、その分担金のやりとりは当事者同士で行なわれます。
 その契約する図書館のライブラリアンが、契約や利用に関する情報を所定のフォームに記入し、ERM担当の部署に提出することによって、ERMにその基礎データが登録されます。このフォームにはそのデータベースの解説文・利用条件・分野などが記述されています。契約が成立し利用可能になれば、そのオンライン資料はE-Research@Harvardで提供されることになります。必要に応じて、横断検索に加えたり、「FIND IT」ボタンからのリンクに対応させたり、HOLLISに書誌レコードやリンク先データを登録したり、といったようなことが処理されますが、どの分野の横断検索に加えるか、利用条件別の取扱い、解説情報の表示なども、ERMに登録されたデータに基づいて行なわれることになります。
 ERMには、有料契約のオンライン資料だけでなく、インターネット上にフリーで公開されているオンライン資料についてもそのデータが登録されます。各館のライブラリアンが掲載・案内するべきだと考えるオンライン資料があれば、所定のフォームを用いてその情報を記述・提出します。審査グループによって評価を得ることができれば、登録された情報に基づいてE-Research@Harvardにて案内が提供されることになります。

 以上のようなワークフローやフォーム、管理・契約にあたって各自が把握しておくべき要領などについては、専用のwebサイトが設けられており、学内ライブラリアン間での情報共有が図られています。

 E-Resource Management & Licensing – Harvard Libraries
 http://isites.harvard.edu/icb/icb.do?keyword=k11228

 また、契約しているオンライン資料を継続的にメンテナンスし、確実な提供を保証していくために、Stewardshipという制度がとられています。これは、各オンライン資料に主たる監督図書館とそのコンタクトパーソンが設定されていて、世話役を担うというものです。利用者や他のライブラリアンからのリクエストやフィードバックはこの世話役である図書館や担当者に伝えられます。またトラブル発生時の報告・案内や、契約業者とのやりとりについても、監督する図書館が執り行うことになります。そして、その監督図書館やコンタクトパーソンがその世話役としての仕事をまっとうできるようなサポートもまた、上記の専用webサイトにて行なわれています。

 オンライン資料の契約・管理については、どの大学図書館でもその業務負荷がある特定の部署や担当者に集中してしまいがちです。このように集中を避けつつ、かつ情報の一括管理と共有が可能となる体制は、ひとつの参考になるのではないか、と思います。

 なお、このERMシステムは学内で独自に開発されたものですが、現在は業務用図書館システムと連携した新たなシステムの試用を始めているとのことです。

35. オンライン資料の検索を強力にサポート — E-Research@Harvard

 電子ジャーナルやデータベースなどのオンライン資料を、いかに効率よく、判りやすく、スムーズに提供するかについては、どの大学図書館も常に頭を悩ませている問題だと思います。
 ハーバード大学では、学内で契約・提供されているあらゆるすべてのオンライン資料について、「E-Research@Harvard」という下記のポータルサイトから探し出し、たどり着くことができるようになっています。

 E-Research@Harvard
 http://eresearch.lib.harvard.edu/

●Cross Search

 このポータルサイトで提供されているサービス・機能のうち、もっとも強力な機能のうちのひとつが、データベースの横断検索です。
 ハーバードでは非常に多くのデータベース – 文献検索データベース、統計データベース、分野別データベースなどを契約しています。E-Research@Harvardでは、MetaLibと呼ばれるシステムを使って、それら複数のデータベースを一度に横断検索することができます。
 ユーザはまず、下記画面の左側にリストアップされている分野別・種類別のカテゴリから、自分の目的に適うものを選びます。すると、その分野・種類に即した複数のデータベースが、画面中央に提示されます。

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 写真は「Music」を選択して、7件のデータベースが提示された例です。この中で、自分が検索したいデータベースをチェックボックスで選び、キーワードを入力して検索してみます。

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 ”shamisen”で検索した結果が表示されました。
 右端に表示されている「Topics」「Authors」などの見出しのついたリンクは「ファセット」と呼ばれる機能で、これをクリックすることでしぼりこみ検索が可能です。検索結果の内容が自動的に分析され、その中に含まれているキーワード(kabuki, theater, tsugaruなど)や著者名などのうち、数の多いものが選ばれて、このようにリストアップされています。このリンクをクリックすれば、そのキーワードや著者名でしぼりこみ検索をした結果がすぐに表示される、という仕組みです。
 「FIND IT」という青いボタンをクリックすると、その論文の全文ファイルへのリンクや、図書・雑誌の所蔵場所を示す書誌・所蔵データへのリンクが示され、現物を入手することができます。これは「SFX」というシステムを使ったサービスで、京都大学の「Article Linker」とほぼ同じ機能です。
 「○」に「+」のマークがついているボタンをクリックすると、選んだ論文のタイトル・著者・雑誌名などのデータが、各ユーザ個人のバスケットに保存されます。保存したデータは「My Research」と書かれたリンクをクリックすることでいつでも参照できます。RefWorks(文献情報管理ソフト)へのエクスポートも可能です。

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 この機能は、ユーザ各自がログインしているときに利用可能なものです。
 E-Research@Harvardのトップページやその他の検索画面のページなどには、随所にログインのためのリンクが設けられています。これは【29. どこでもハーバード – WebサービスとPIN System】でご紹介したPIN Systemへのリンクであり、ユーザはここで自分の身分証番号とパスワードを入力することにより、ハーバード契約資料へのアクセスが認められるメンバーとして、認証を受けることになります。
 下記は、ログインしていなかったときの、横断検索画面の例です。

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 ハーバードの学内者でなければ使用できない契約データベースには、使用できないという意味の「○」に「/」のマークが表示されています。逆に、フリーで公開されているデータベース(AGRICOLA)やハーバード自身が作成して一般公開している目録データベース(Harvard Geospatial Library)にはチェックボックスがついています。フリーで利用できるデータベースについては、ハーバードの学内者でなくてもこの横断検索機能を利用できます。

●E-Resource

 ハーバードの図書館が契約あるいは提供しているオンライン資料、データベース、コレクションなどについて、キーワードやタイトルなどから探すことができるのが、「E-Resource」サービスです。キーワードなどによる検索で探すほか、リストアップされた分野名からたどり着くこともできます。

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 右側の「○」に「i」のマークをクリックすると、そのデータベースについての解説・利用条件・分野などの情報が表示されます。

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 また、ここでは契約・有料もののデータベースだけでなく、ハーバードで作成・公開している無料のデータベース、インターネット上でフリーで利用できるデータベース、他大学が作成した分野別リンク集や、ハーバード図書館のwebサイトや各館が作成した利用ガイド・分野別ガイドなど、じつにさまざまな種類のオンライン資料が含まれています。学内の各分野の専門家であるライブラリアンが、ここに掲載してユーザにおすすめできると考えたオンライン資料については、その出自や有料無料に関わらず、提供されています。上記リストのうち、「○」に「/」のマークがついていないものが、フリーで利用できるオンライン資料にあたります。

●LibX

 E-Research@Harvardで提供されているサービスとは別のものですが、「LibX」についてご紹介します。
 LibXはユーザ各自が自分のwebブラウザに組み込んで使うツールです。ヴァージニア工科大学で開発されたもので、各大学の図書館サービスシステムに合わせてカスタマイズしたものが提供されます。ハーバードの図書館webサイトからも、ハーバード大学のユーザ向けにカスタマイズしたものが配布されています。
 このツールをwebブラウザに組み込むと、さまざまな図書館サービス・情報検索に関する便利な機能を利用することができるようになります。
 例えば、ブラウザにインストールされたツールバーから、直接HOLLIS(ハーバードの蔵書検索)や電子ジャーナル用データベース、Google Scholarなどを検索しに行くことができます。

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 ほぼ同じ機能が、webページのテキスト選択後の右クリックメニューからも可能です。

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 また、Amazonの検索結果画面などにハーバードのマークが表示されるようになり、それをクリックすると、同じ本がハーバードの図書館に所蔵されているかどうかをHOLLISで確認できます。さらには、閲覧中のwebページの中にISSNやISBNが書かれてあれば、自動的にそれを認識し、HOLLISを検索するためのリンクを付与してくれます。

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34. 日本のマンガを保存する図書館 — Cartoon Research Library, Ohio State University

 オハイオ州・コロンバスにあるオハイオ州立大学には、Cartoon Research Libraryという、マンガ資料専門の研究図書館があります。1977年、漫画家ミルトン・カニフのコレクションを受け継ぐ形で設立されました。マンガ(Cartoon)資料の包括的な研究用コレクションの構築を目的とし、25万点のマンガ原画、4万冊の図書、5万タイトルの雑誌・逐次刊行物、250万点の新聞コミック等の切抜きが保存されています。そのすべてがレアブックとして取り扱われており、事前予約による閲覧のみが可能となっています。
 そして、このコレクションの図書資料約4万冊のうち、約1万冊が日本のマンガ及びその関連図書だそうです。
 日本のマンガ資料の選書・収集及び研究を行なっているのが、当大学の日本語コレクション専門ライブラリアンであり、Assistant Professorでもある、Maureen Donovanさんです。

 Manga blog, Ohio State University Libraries
 http://library.osu.edu/blogs/manga

 1995年、サバティカルで東京滞在中だったDonovanさんは、日本におけるマンガ文化の充実ぶりを体験し、いまのうちにマンガ資料の体系的なコレクション構築を始めておかなければならない、との思いを強くしたそうです。帰国後、Cartoon Research Libraryのライブラリアンと相談し、日本マンガコレクションの体系的・継続的な構築の開始が決定されました。
 資料購入のため、国際交流基金など各所からの資金援助を得たり、整理のため専門のカタロガーを雇用するなど、さまざまな努力が続けられてきました。現在では、このCartoon Research Libraryの利用者の多くが日本マンガ資料を目的としており、日本からの利用者も少なくないとのことです。
 このコレクションの特徴のひとつは、特定の作者・分野の資料を集中的・網羅的に収集すると言うわけではなく、日本におけるマンガの歴史・文化全体を概観できるよう、広範囲にわたる資料収集が行なわれている、という点です。ある作家の作品がすべて購入されているとか、ある雑誌が初号からすべてそろえられているという例はあまり多くありません。そのかわりに、歴史マンガ・政治マンガなどのさまざまなジャンルのマンガ、マンガによる社史・辞典・受験参考書、マンガの描き方を指南した本、同人評論誌や記念出版物、さらにはマンガの描かれた双六や子供用グッズ、映画化記念冊子に至るまで、日本の社会においてマンガがどのように浸透しているかを広く見渡すことができるコレクションになっています。どの本屋でも売っているような最近の単行本もあれば、「時事漫画」のような戦前・戦中の出版物や、原画・手稿資料のような非常に貴重な資料もあり、その幅広さには驚くばかりです。

 日本のマンガを収集することの難しさのひとつは、絶版になりやすい、という点だそうです。マンガそのものだけでなく、その関連書籍や参考図書となるような本も、刊行後すぐに品切れになってしまい、そのまま入手不可能となってしまう例が少なくないそうです。ISBNの付与されない出版物や限定・記念出版物が多いことも、その一因のようです。
 最近ではインターネットで探し当てることができたものも少なくないようですが、古書店やネット書店では海外に送ってもらえなかったり、支払方法が非常に限定的であったりといったことが問題になってしまいます。300円程度の本が、代理店を通したり、送料を負担したり、支払い手数料がかかったりして2000円近くにまでなってしまうこともある、とのことでした。支払方法が限定的であるために購入できない、あるいは割高になるというのは、日本語資料を扱う海外の図書館では大きな問題であるようです。
 また、マンガの選書・蔵書構築のための参考図書やツールが整備されていないことも、資料収集を難しくしているとのことでした。Donovanさん自身、まずその参考図書の収集やマンガのビブリオグラフィー(書誌学)の研究からスタートしたそうです。マンガについての研究目的の参考図書は、学術的過ぎて実用に即していない。実用できそうなマンガ特集のムック本などは、すぐに絶版になって入手困難になる。そもそも、マンガ雑誌の収録作品や記事を検索できるようなインデクスやデータベースが整備されていない、などの問題があるようです。

 コレクションの構築に伴い、その目録の作成が問題となります。オハイオ州立大学では、OSCARと呼ばれるOPACで「manga collection」というキーワードで一括して検索することが可能です。
 また、日本のマンガをカタロギングするための独自のガイドラインが作成されており、オハイオ州立大学の特殊コレクション目録部署のホームページに掲載されています。これは大学のカタロガー、マンガの目録を担当していた実務者、Donovanさんらの共同作業によるもので、改訂を繰り返して現在に至っているそうです。日本のマンガに特有の出版事情や形態、それに伴う書誌記述についての解説が含まれています。
 この日本マンガについての書誌レコードには、「Summary」と「Genre Terms」が記述されています。「Summary」は作品のストーリーなどをおおまかに英訳したもので、例えば以下のようなことが書かれています。

”A story about a wizard who works for the imperial court during the Heian period in Japan. He solves weird problems by using his magical knowledge based on the Ying yang cult.”

 また、「Genre Terms」は、日本のマンガに固有のジャンルを表す「Genre Terms」リストから、ひとつまたは複数を選んで記述するというものです。非常に多くの、かつ多岐にわたる用語がリストアップされています。LCの件名標目も併用するため、実際の書誌には以下のような記述がされることになります。

Oda, Nobunaga, 1534-1482 — Comic books, strips, etc.
Generals — Japan — Biography.
Historical manga.
War manga.
Samurai and ninja manga.

 日本人は必ず何かしらのマンガを読んだ経験があるため、どんなマンガであるか、どんなジャンルであるか、読者層は誰かなどがすぐに把握できる。しかしアメリカ人にはそれができないため、こういったSummaryやGenreの記述が欠かせない、とのことでした。

 Donovanさんは、Assistant Professorとして日本のマンガについての授業も担当しておられます。これは主に学部1年生を対象とし、毎回特定のマンガ作品について互いにディスカッションしあう、というものです。この授業を通して、学生同士が交流を深めたり情報交換のコミュニティを築いたりという効用があるそうです。Donovanさん自身、日本からの情報をまったくタイムラグなしに入手してくる学生たちに大いに刺激され、多くの有用な情報を得ている、とのことでした。
 そんなDonovanさんが危惧しているのは、ほとんどの日本の大学図書館・研究図書館がマンガを蔵書構築の中に有効に組み込んでいない、という点です。先述のようにマンガやその関連書籍はすぐに絶版になることが多い。一方、マンガを原典や資料として活用するような世代は今後増えつづけるはずである。日本でも保存・収集の取り組みが必要なのではないか、とのご意見でした。

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