17. 本と、コーヒーと、快適な居場所 — 図書館カフェ

 USA TODAYのWebサイトに、9月27日付けの記事として、米国内の大学図書館にスターバックスをはじめとするコーヒーショップが出店している様子について、レポートされています。

「Something else to check out at library: Starbucks」(USA TODAY, 2007/9/27)
http://www.usatoday.com/money/industries/food/2007-09-27-starbucks_N.htm

 今回は、ハーバード大学内にある2軒の図書館内カフェ — ワイドナー図書館のカフェとラモント図書館のカフェについて、ご紹介します。

 学内図書館の中心的存在であるワイドナー図書館には、地下に小さなカフェがあります。テーブル席・ソファ合わせて40席ほど。営業時間は07:30−14:30。図書館の平日の開館時刻は09:00ですし、そもそも地下のほとんどは職員のオフィスで、閲覧室や書架はありませんので、主に館内職員がターゲットの休憩室ととらえるべきでしょう。とはいえ、利用者も自由に利用できる施設ですので、軽食をとったりリフレッシュしたりしたいときにはありがたい存在であると言えます。ちなみに、先日10月1日にリフレッシュ・オープンしたばかりです。
 経営しているのは、学内のカフェ・食堂やケータリング等の事業を受け持っている、Harvard University Dining Service。取り扱われている商品は、コーヒー、お茶、ソフトドリンク、パンやサンドイッチ、パックのサラダ、寿司、果物、スナック類。日替りスープもあります。時間外で店員がいないときでも、自販機(ドリンクやスナック・サンドイッチ類を販売)やエスプレッソ・マシン(セルフサービス)が利用できます。電子レンジも備え付けてあり、持ち込んだお弁当を温めて昼食をとっている人もいました。

 対して、学部生向け・学習用図書館であるラモント図書館のカフェは、入口ゲートを通ってすぐ右手。書架・閲覧室のあるエリアに隣接した位置にあります。生垣やオブジェが並ぶ中庭に面していて、全面ガラス張りで眺めもよく、館内の”一等地”と言えるでしょう。ソファやランプシェードなどのインテリアは、街中のコーヒーショップのような落ち着いたデザインのもので統一されています。テーブル席が約60席、ソファが約20席。コーヒーや軽食をとりながら、本を読んだり、自習をしたり、グループでディスカッションをしたりと、気持ちよくリラックスして勉強ができる空間になっています。

Lamont Cafe (写真あり)
http://www.dining.harvard.edu/campus_restaurants/restaurants_lamont.html

 カフェ内には、自由に利用できるデスクトップPCが6台。自分のPCを持ち込んで無線LANにアクセスすることも可能です。また、このラモント図書館ではノートPCを館内貸出するサービスも行なっています。
 新聞ラックや新着雑誌架もこのカフェ内にありますので、気軽にブラウジングしながらくつろぐことができます。雑誌は約120タイトル。各分野のレビュー誌・コア誌(Library Journal, Writer’s Digest)、ハーバードの学会誌・レビュー誌(Harvard Business Review)、一般誌(TIME, National Geographic, The New Yorker)、娯楽・趣味誌(Vogue, Wired)などがならんでいます。さて、ここで注意しておきたいのは、このラモント図書館はコース・マテリアルの提供など、あくまで学習支援に特化した図書館であり、必ずしも資料の保存に重きを置いているというわけではない、という点です。実際この新着雑誌架にならんでいる雑誌も、その多くはバックナンバーが一定期間までしか保存されていないようです。このような機能の特化が背景にあってこそ、飲食自由なカフェと図書館資料とが同じ室内で共存できているのだと思います。
 なお、館内で食べ物を食べてよいのはこのカフェの中だけ、飲み物は蓋で密閉されたいれものであれば持ち出してもよい、というルールになっています。また、このカフェと通常の書架・閲覧エリアとはガラス扉で仕切られていて、音や話し声がカフェの外へ漏れないように配慮されています。
 経営しているのは、ワイドナー図書館と同じくHarvard University Dining Serviceで、扱われている商品もほぼ同じ。店員がいない時間外には自販機・エスプレッソマシンが利用可能である点も同じです。但し、決定的にちがうのはその営業時間(店員が詰めている時間)で、こちらは15:00−翌02:00。というのも、このラモントは24時間開館している図書館で、学生が主に活動している(と思われる)午後から夜半まで営業してくれている、というわけです。実際に私が訪ねたときも、お昼のランチタイムは意外に人が少なく、一方、午後9時頃にはほぼ満席。さすがに午前2時の様子までは確認できませんでしたが、夜遅くまでみな熱心かつ活発に勉強、もしくはおしゃべりしていました。(なお、金・土は図書館・カフェともに21:45に閉館します。)

 最後にもうひとつ留意しておきたいのが、ハーバード学内にはこのような図書館カフェに限らず、学生が学習場所として利用できるコモン・スペースが多数存在している、という点です。ラモント図書館のカフェは確かに人気の高い場所のようですが、かといって、大勢が押し寄せてしまって混雑しているとか、場所取りや順番待ちで居心地が悪いなどというようなことは決してありません。学内には、誰でもが自由に使っていいコモン・スペースが至るところにあって、テーブル・イス・ソファなどが並んでいます。そこでは、この図書館カフェと同じように自習やグループ・ディスカッションができますし、学内共通の無線LANを通じてインターネットにアクセスすることも可能です。時には、学生が教員から指導を受けている様子を見ることもできます。このように、学生の居場所としてのコモン・スペースが充分に用意されているキャンパスだからこそ、図書館内にカフェを設置しても人々が殺到することなく、適度に快適な空間を保つことができているのではないでしょうか。
 図書館カフェは、たんに図書館内の客寄せ施設としてではなく、キャンパス内の”居場所”を構成する空間のひとつとしてとらえられるべきだろうと思います。