11. 新サービスのターゲットは? — ワイドナー図書館

 ハーバード大学の図書館の中でもっとも歴史が古く、中心的存在であるのが、ワイドナー図書館です。
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 ワイドナー図書館
 http://hcl.harvard.edu/libraries/#widener
 館内の様子
 http://hcl.harvard.edu/info/study_spaces/index.html#widener

 この図書館前面の大階段は、学内の行事・集会のほか、学生活動の場としても利用されているようです。

 Guidelines for Assembling on Widener Library Steps
 http://hcl.harvard.edu/libraries/widener/assembling_on_steps.html

 先日、このワイドナー図書館の副館長から、学内の各部局図書館長あてに、ワイドナー図書館における新サービスの案内がメールで届きました。
 以下はその抜粋です。

– ワイドナー図書館内にあるメモリアル・ルームを、ウェディング・チャペルとして利用できるように整備し、学内職員による利用を可能とする。
– 隣接するラモント図書館内のカフェでアルコールを提供できるよう、州発行のリカー・ライセンスを取得する。
– 時間外のチャペル利用には追加料金を設定する。なお、深夜に及ぶ祝宴については、24時間開館しているラモント図書館の学生を派遣できるようにする。
– 予算に応じて、人文・科学部長、図書館長、学長いずれかに司祭役を依頼することができる。アクセス・サービス部門が仲介する。
– 儀式にグーテンベルグ聖書を使用する場合は、別途有料とする。
– 写真撮影はイメージング・サービス部門が行なう。
– 蔵書構築部門と研究サービス部門のスタッフは、介添人やフラワーガールとしての研修を受けることとする。これにあわせて、人事部門は彼らの職務分掌と俸給についての再検討を行なう。
– このサービスに関する広報用パンフレットとWebサイトを至急用意する。
– 以上のことを、各館のスタッフに広く知らせてほしい。

 この冗談を真に受けたスタッフはおそらくいないと思いますが、それにしてもこのような冗談が成り立つほど、ワイドナー図書館の建物は内装・外観ともにとても荘厳な造りになっています。また、館内カフェテリア、24時間開館、独立したイメージング・サービス部門など、脇を固めるサービスが実在するということについても、注目したいところです。

 ワイドナー図書館の歴史
 http://hcl.harvard.edu/libraries/widener/history.html
 ラモント図書館内のカフェ
 http://www.dining.harvard.edu/campus_restaurants/restaurants_lamont.html
 ラモント図書館の開館時間
 http://lib.harvard.edu/libraries/0027FULL.html#hours
 グーテンベルグ聖書(ハーバード・ホートン図書館所蔵)
 http://pds.lib.harvard.edu/pds/view/6865427
 イメージング・サービス部門
 http://hcl.harvard.edu/info/imaging/

10. 快適に仕事をするために — Ergonomic Training Session

 8/15、イェンチン図書館の職員を対象に、Ergonomic Training Sessionが行なわれました。
 ergonomicとは、直訳すると「人間工学」という意味ですが、ここでは職場における各者の健康や身体上の安全に関する考え方を指しています。ハーバード大学内のDepartment of Environmental Health and Safetyという専門の部署から来た講師の方により、デスクワークをしているときに注意するべきことや、イス・机・コンピュータなどの位置・使い方についての指導がありました。

 Department of Environmental Health and Safety
 http://www.uos.harvard.edu/ehs/

 長時間の無理なデスクワーク、とくにコンピュータ中心の仕事では、身体の至るところに様々な悪影響を及ぼす可能性があるということが説明され、それを防ぐための正しい姿勢等について指導がされました。例えばイスひとつにしても、クッションにどのように腰掛ければ足に負担をかけずに済むか、そのためにはクッションの位置をどう調節すればよいか、腰をサポートするためにイスのどの部分をどう調節すればよいか、肩や腕を痛めないために肘掛の高さをどう調節するべきなのか、その調節の結果としてキーボードと腕との位置関係がどうあるべきか、といったことが丁寧に、実演をまじえて判りやすく解説されます。他にも、キーボードのどの位置をよく使うかによってその位置を変えること、電話をよく使う仕事であればヘッドセットを使うこと、文字入力を行なう仕事であればドキュメントホルダーを用いることで身体への負荷を減らすこと、よく使うすべての物を机の手の届く範囲内に配置して、無理に手を伸ばすことなどがないようにすること、などが説明されました。
 最も興味深かったのはラップトップ型PC(ノートPC)に関するトピックスでした。そもそもラップトップ型PCは、キーボードとディスプレイのサイズや位置が固定されてしまっているため、ergonomicという考え方に適合していない代物のようです。それでも使用する際には、引き起こされる身体上の問題を防ぐため、ラップトップスタンド(ラップトップ型PCのディスプレイが目の高さまで来るように、机の上に固定し高さを調節できるスタンド)と、別途接続して使えるキーボードやマウスを使用することが推奨されていました。ですが、それでは基本的にデスクトップ型のPCと変わりがないわけですから、ラップトップ型PCというのは、”持ち運びを頻繁に行なう”という条件下でもない限りは、業務用として使用するには不適切であるということになってしまうのかもしれません。
 このDepartment of Environmental Health and Safetyでは、希望者の都合のよい日時に実際の職場まで出向いて具体的なアドバイスを行なう、というサービスも行なっているそうです。また、講習内容をWebサイトで自習することもできるように準備されています。

9. 本を大切にしてほしい — 資料保存啓発グッズ

 アメリカのたいていの大学図書館には、資料保存・修復を専門にする部署があります。古典籍・歴史的資料のケアだけでなく、近代酸性紙資料への対応、書庫環境・資料取り扱いなどについての学内各図書館への指導・アドバイスといったことを行なっています。アメリカの司書の方と話をしていると、何かにつけてこういった資料保存部署に言及されることが多く、頼りにされている存在であろうことがうかがえます。

 今回は、ハーバード大学のWeissman Preservation Center & HCL Preservation作成の資料保存啓発グッズについてご紹介します。

Library preservation at Harvard
http://preserve.harvard.edu/index.html

 ↓図書館内で資料が水濡れしてしまったとき、24時間体制で緊急体制してくれる連絡先が書かれた、マグネットプレート(ほぼ原寸大)です。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/products_magnet.gif

 ↓本をコピーするときの注意事項が書かれた、縦長のポスター。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/products_photocopying.gif

 ↓図書館資料を守るための15の基本的な注意事項が書かれた、ポスター。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/product_15ways.jpg

 ↓借りていく本が雨雪に濡れないようにするための、ビニールバッグ。利用者用です。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/products_rainy_day_bag2.gif

 これらを見ていると、どれも、ただ単に事実や注意事項を知らせるためのものというだけではなく、目に留めてもらえやすいような、使ってもらえやすいような工夫を加えることによって、そのお知らせをより効果的に広めようとしている、ということがわかります。
 例えば、水濡れ対応のプレートは非常に小さくかつマグネットなので、机の脇や書類棚など、どんな場所にでも気軽に何気なく貼っておくことができます。私が勤める図書館内でも、どこでどんな作業をしていてもこれを目にしない日はないくらいに、あらゆる場所に当たり前のように貼られています。だからこそ、ひとたび何か事が起こったときには、即座にその連絡先へ連絡することができるという効果があるのではないでしょうか。また、コピー機の周辺は何かと手狭で空きが少ないものですが、このポスターのように縦長であれば、幅広のポスターに比べて場所をとることなく、上手に掲示しておくことができるように思います。
 15の注意事項が書かれたポスターや雨雪用のビニールバッグは、図書館グッズとは思えない(?)、自らすすんで使いたくなるような、感じのよいデザインと色遣いで仕上げられています。その書かれている内容や本来の使用目的に関わらず、このポスターであればそのデザインだけでもちょっと貼っておこうかなという気になりますし、ビニールバッグもすすんで使おうという気になるのではないでしょうか。単に○○図書館とだけ書かれた無粋なビニール袋をぶらさげて歩き回るのはごめんだというような学生でも、それなりのデザインがあしらわれたバッグなら、借出時だけでなく返却の際にも抵抗なく使ってもらえるかもしれません。
 事務的な姿勢や無機質な言葉だけでは、伝わる情報量にも限りがあります。本当に知ってほしいこと、使ってもらいたいものがあるのならば、相手の事情を察した配慮や、気持ちをひきとめるような感動が必要なのではないでしょうか。