23. 日本を学ぶ学生たち — UMassでの日本分野講義

 University of Massachusetts Amherstには、日本分野を専門にしている教員が現在6人います。学生は、専攻している学生が約100人、日本語クラスの取得者は約200人とのことです。
 ライブラリアンのSharon Domierさんにご紹介いただいて、いくつかの授業に参加させていただくことができました。アメリカの州立大学で日本語や日本文化について学ぶ学生たちが、どのような授業を受けているかについて、ご紹介します。

●変体仮名の講読
 変体仮名(くずし字)を原資料で読む講読の授業です。主に古典文学を専攻する院生が20人弱参加しています。私がお邪魔したときは、竹取物語の写本を読んでいました。週1回・40分の授業で、8週目だそうですが、予習の段階でほぼ読めているようでした。
 ここではいい勉強方法があれば教えてほしいと求められましたので、京都大学電子図書館の貴重資料画像(http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/index.html)を紹介し、現代語訳や英訳を読んでから原資料にとりかかる方法、同じ作品をちがう資料を使って複数回読む方法、漢字にふりがなのある資料を読んで漢字を覚える方法などを紹介しました。

●Bibliographyの授業
 学部4回生・院生を主な対象とした授業で、図書・論文を検索して見つけることができるようになることを目的としたものです。ライブラリアンのSharon Domierさんが講師を務め、図書館内のPCクラスルームで行なわれています。半年の授業で、週3回なのですが、例えば課題として以下のような問題が出されていました。
「谷崎潤一郎の短編小説で英題を“The Thief”という作品の、原題は何か。また、この英訳が収録されている図書と、日本語の原作が収録されている図書を、それぞれ示しなさい。」
 この授業を受講した学生は、ILLや購入依頼の際、書誌を正確に示すことができるようになるそうです。
 NDL-OPACやWebCAT/plusで書誌を確かめたあとで、OCLC・WorldCATを検索して米国内の所蔵があるかどうかを確認すること、などが紹介されていました。そこで私のほうから「WebCAT/plusの書誌からOCLC・WorldCATの書誌へのリンクがあれば便利では?」と提案してみたところ、そうなってくれると非常に助かる、との声をいただきました。
 また、CiNiiの検索結果から本文へのリンクがあるが、アクセスできないことが多く、なぜアクセスできないかがわからない、そもそもアクセスできるのかできないのか自体もわかりにくい、との意見がありました。

●Media Japan
 インターネット上の資料を使って、日本語力をブラッシュアップするという授業です。新聞社サイトの記事・社説や、ニュース映像やテレビ番組のストリーミング、ブログ記事などを使っていました。
 よく使うWebサイトは何かを尋ねたところ、Wikipedia、goo辞典などが挙げられました。日本語の習得には映画やテレビドラマを見るのが非常に効果的だそうです。また、出席していた学生のほとんどがmixiを利用していました。

22. 日米をつなぐライブラリアン — East Asian Studies Collection (UMass Amherst) その2

 今回ご案内くださったSharon Domierさん(East Asian Studies Librarian, University of Massachusetts Amherst)は、日本分野を専門とするライブラリアンです。現在、論文誌『大学図書館研究』の編集委員を務め、日本でもたびたび講演を行なっておられます。
 Domierさんは週5日のうち、3日をUMass Amherstで、1日をAmherst Collegeで、1日をSmith College(Amherst近くの街・Northampton)で勤めています。選書・発注指示・目録がメインの業務で、加えてサブジェクト・レファレンス、授業による教育活動を行なっています。

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 Sharon Domierさんに、ご自身の普段の活動、日本の大学図書館・図書館員や情報サービスについてのご意見・ご感想などをうかがってみました。

●ライブラリアンとしての身分について
・UMassでは、制度上、ライブラリアンと教員がほぼ同じ身分として扱われている。
・ライブラリアンはその経験と業績によって、Librarian 1からLibrarian5まで順にステップアップしていく。ステップアップには、経験の蓄積や論文発表などの業績が必要で、これが仕事をする上でのモチベーションにつながっていく。
・大学によっては、ライブラリアンと補助スタッフとの身分が同じで、ステップアップもしていかないというところもある。

●日本の目録・書誌データベースについて
・日本分野の学生・教員が実際に使っているのは、主にOCLC・WorldCATと早稲田大学OPACのWINE。NACSISWebCAT/plusはその次。
・WorldCATやWINEは、NDL-OPAC・WebCATとちがってローマ字を表示してくれる、また出版社名のヨミを確認することができる。特に教員は、英語で書いた論文のレファレンスリストに出版社名をローマ字で記述しなければならず、その際にWorldCATやWINEが非常に重宝する。

●Webによる学術情報発信について
・特に、科研費報告書や博士論文の入手が難しく、それらが積極的にデジタル化され、インターネットでアクセスできるようになってくれるとよい。ただ、機関リポジトリにあるかどうかを調べるというようなことは、あまりやっていない。なにをどう検索すれば自分が望むものが見つかるのかが、まだよくはっきりしない。収録されてくれるようになれば助かる。
・近代出版物でも、古典籍資料でも、図・絵・写真など画像データがあるほうがいい。研究対象としても、プレゼン・発表用資料としても、教育用教材としても、画像は重要で、よく使われる。それらを上手に探せるようなサイトがあったり、検索できるツールがあったりするのがよい。
(註:NewYork Public Library(http://digitalgallery.nypl.org/nypldigital/dgkeysearchresult.cfm?word=Academic%20costume&s=3&notword=&f=2)のWebサイトなど、資料全体がデジタル化されているものだけでなく、資料内の挿絵・図・写真部分のみがピックアップされて、画像データベースとしてWeb公開されている例が多い。)

●日本のライブラリアンへのメッセージ
・アメリカの日本分野ライブラリアンと、日本の大学図書館員との交流の場、特に個人同士としての交流の場が持てるとよい。Domierさん自身も、大学図書館研究の編集委員を務めるまでは、日本の図書館員と交流を持つきっかけがほとんどなかった。
・そのためには、メールやWebでの交流もひとつの手段ではあるが、やはりお互いが実際に出会うこと。ACRLなどの会議に出席すること。ポスターセッションなど積極的な発表・活動を行なうことなどがよい。

21. 日本分野の学習を支える図書館 — East Asian Studies Collection (UMass Amherst) その1

 University of Massachusetts Amherstでは、East Asian Studies LibrarianであるSharon Domierさんにご案内いただき、様々なお話をうかがってきました。今回はEast Asian Studies Collection、Reference Reading Roomの様子や日本語資料の利用の実態について、ご報告します。

 University of Massachusetts Amherst, East Asian Studies Collection
 http://www.library.umass.edu/subject/easian/

●概要
・East Asian Studies CollectionとReference Roomが独立したものとして成立したのは、約40年前。East Asian Studies分野以外に独立したReference Roomを持つところはない。
・現在、W.E.B Du Bois Library内の21-22階に位置する。
・東アジア全体で約5万冊。うち日本語資料約2万冊。英語・西洋言語の東アジア関連資料は、一般のコレクションとして取り扱われている。
・請求記号・分類はLC分類を採用。日本語資料・中国語資料・韓国語資料を別々に配架することはなく、混配している。
・教員の研究分野が現在はほとんど文学分野であるため、蔵書も文学分野が中心になっている。

●資料の選択
・学生教材に適した資料として、絵・写真の多いビジュアルな資料、読みやすく振り仮名の多い大活字本、短くて楽しみながら読めるショートショート作品などを集めている。
・視聴覚資料として、日本映画のDVDを収集している。できるだけ英語字幕のあるものをそろえたいが、そのようなDVDはそれほど多くない。
・マンガも購入したいが、どれをそろえればよいかの選択が難しい。

●資料の購入・入手の問題点
・日本語資料の購入には、紀伊國屋書店などの代理店を通す。代理店を通すとドル立てで支払いができるが、直接日本の業者(古書店等)と取引しようとすると郵便振替などを求められることが多く、支払いができないため、入手もできない。特に美術館・博物館などの図録の入手が難しい。流通ルートにのっていないので、代理店経由では購入できず、直接購入しようとしても支払方法が限られていて購入できないことが多い。古書店にしろ美術館などにしろ、あらゆる場面でクレジットカードでの支払いが普及してくれるようになると、入手できる資料の幅が格段に広がって助かる。
・米国内の他大学の重複本や、日本の大学の重複本などを寄贈してもらうことが多い。

●ILL
・ILL依頼は、学生・教員が直接ILL部署に依頼する。Bibliographyの授業(別途あらためて紹介します)を受講していれば、学生でも日本語資料の書誌を正確に特定して依頼することができるようになる。
・ILL部署に届いた依頼のうち、ISBN・ISSNのないもの、資料の特定が難しいもの、特殊な機関への依頼を要するものなど、日本情報に関する専門知識が必要なものについて、相談を受ける。
・GIFはよく利用しているが、NDLへの依頼は割高でFAXや電子送信がされないので、ほかで見つからないときのみ利用している。

●目録
・東アジアコレクションのOPACへのデータ収録率は約80%。カード目録も現役で提供している。
・OCLCに参加。目録登録にあたってはOCLCの書誌を利用している。OCLCでは現在早稲田大学やTRCからの書誌データを利用できるため、かなり助かっている。
・ただ、できるだけ北米内ILLではまかなえないような資料を選んで購入していることもあって、OCLCに書誌がなくオリジナル作成をしなければならない例も少なくない。

●The Benjamin Smith Lyman Collection
・Benjamin Smith Lyman (1835-1920、Amherst近くの街・Northampton出身)のコレクション。明治時代に、北海道開拓のための技術顧問(地質学・鉱業学)として、来日(1872年)。鉱脈調査や公共事業関連の仕事を務める。几帳面な観察者で、大量の資料・詳細な記録を残している。
・全体で約4100冊の図書のうち、約1800冊が和装本。ほかに地図約120点、地質調査ノート、家計簿、名刺コレクション、書簡などが残る。
・和装本の書皮が数多く残されており、保存状態も非常に良い。(和装本の書皮は、日本の図書館では残されていないことが多い。)

 

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