26. East Asia Library — Yale University Libraryその2

 Yale UniversityのEast Asia Libraryには、日本分野専門のコレクション&レファレンス・ライブラリアンが1人、日本資料専門のカタロガーが1人いらっしゃいます。East Asia Library全体のトップであるキュレーターも、日本研究が専門の方です。

 コレクション&レファレンス・ライブラリアンの中村治子さん、カタロガーの鈴木啓子さん、キュレーター(東アジア図書館館長)のEllen Hammondさんにお話をうかがいました。

●データベース契約における障害・問題点
・Japan knowledge、聞蔵(朝日新聞)などを契約。
・学内の中央組織にデータベース契約専門の部署があり、日本の有料データベースを契約するときにもそこを通さなければならない。が、日本のデータベース業者側の提示している利用規約が、米国側の契約上の基準や利用実態に合致しないため、契約ができなくなってしまうことが多々ある。例えば、米国側では「大学内のメンバーであれば、学外のネットワークからでもアクセス可能であること」が必須の条件であることが多いが、日本側の利用規約にそれを認めない旨が記載されているために、契約が認められない、ということがある。また、日本側の利用規約に「データの転載を認めない」というような文言があることによって、論文の参考文献リストへの記載などが不可能になるおそれがある。日本ではそれほど問題視されずに契約が成立するような規約であっても、米国の契約関連の部署は規則の遵守について極めて厳密に考えるため、少しでも訴訟を受ける可能性のある契約や、規約にあいまいな表現の残る契約は避けようとする。(ハーバード・イェンチン図書館でも、「ユーザの不正利用の責任は図書館が負うこと」という条件のため、契約が許可されない例があったようです。)
・以上のような場合、日本側の業者・代理店と何度も交渉しなおしたり、直接日本に出向いてお互いに意思を確認しあうなど、たいへんな時間とエネルギーを費やすことが多い。それでも、お互いに継続してコミュニケーションを取り合うことが重要である。
・但し、このような交渉は、アメリカの東アジア分野図書館という、日本側から見れば小規模・少数のユーザからの要求・説得だけでは、限界があり非常に難しい。利用規約や契約条件の文言があいまいであったり、実際の利用に即していなかったりといったことは、日本の大学図書館・ユーザにとっても好ましい状態ではないはず。このような場合には、衝突を避けて契約に応じるのではなく、ぜひ日本の大学図書館側からも要求を出し、説得を試みることによって、事態を進行させてほしい。

●日本へのILL依頼
・ILL依頼は、どのような言語・国の資料であれ、すべて館内のILL専門部署が集中して担当する。日本の図書館に資料を依頼する利用者も、直接ILL部署に依頼を送り、依頼業務も館内のILLスタッフが執り行う。ILLスタッフは日本語がわかるわけでも日本の図書館事情に精通しているわけでもないので、ルーチンな処理ではないなどの場合には、日本分野専門ライブラリアンのところに相談が来ることがある。
・GIFは、日本側の参加館が多いのが助かっている。ただ、同じ大学内の資料であっても、別の図書館や部局にあるために使えない、という例が多い。そのためか謝絶されることが多く、結果的に利用しづらくなる。
・NDLのILLサービスは、ILLスタッフが日本語がわからず、NDLのサービスを使いこなせないため、利用されることが少ない。クレジットカード支払いができるのが利点ではある。
・CiNiiのペイパービューは、日本語がわからないILLスタッフでも比較的使いやすいシステムになっており、よく利用されているようである。ただ、CiNiiのライセンス契約条件・規約が、契約部署による基準に合致していないため、契約ができない。

●日本語資料の目録・書誌
・OPACでの日本語文字表示が実現したのは、2006年。但し、書誌自体は長い期間かけて様々な形で作られており、日本語データが入っていないものが多少あったり、分かち書きされているものとされていないものがあったりする。
・OCLCに参加。
・紀伊国屋書店に図書を発注した場合、OCLCに対応する北米基準の書誌がなければ、書誌レコードを作成・納品してくれる。昨年からは一部コピーカタログも依頼している。
・OCLCには早稲田大学からの書誌レコードが収録されており、それを北米の基準に即した形に編集して利用できるので、たいへん助かっている。ただ、昨年夏頃に旧RLIN内の日本語書誌のデータが収録され、結果的に件名・著者標目などの重複したデータ、北米の基準に合致しないデータなどが急増してしまった。書誌レコードやデータが増えること自体はよいのだが、このようにかえって手間が増える結果となってしまう例もある。
・現在の図書館OPAC(Yaleに限らず)は、書誌レコード内のデータをフルに活用しきっていない。もっと有効活用すれば使いやすく、いろいろなサービスを提供できるOPACになるはずである。そういった次世代型OPACへの移行を、Yaleでも準備中である。

●その他
・日本語の図書・論文などのフルテキストデータがオンラインで手に入らない件が、非常にフラストレーションを感じる。
・Yale Universityの図書館には、中国や韓国からはたくさんのvisiting librarianが来ているのに、日本からはまったく来てもらえていない。1日・2日の見学としての訪問だけではなく、長期間の交流・交換プログラムとしてもっと積極的に来てほしい。

25. Yale University Library

 Yale University(イェール大学)は、1701年設立、全米で3番目に古い歴史を持つ大学です。ニューヨークから北東へ約100キロのニューヘイブンという街にあります。研究やスポーツなどにおいて、ハーバード大学とは何かとライバル関係に挙げられる存在のようです。学生数約13000人、研究者約3000人。図書館の蔵書数は約1250万冊に及びます。
 11月の終わり、Yale Universityの中央図書館であるSterling Memorial Library、およびその中にあるEast Asia Libraryを訪問してきました。

 Yale University Library
 http://www.library.yale.edu/

 Sterling Memorial Libraryは1930年の建物ですが、ゴシック様式の教会をモチーフとしてデザインされています。ステンドグラス、柱や壁の彫り物、メインカウンター付近に掲げられたフレスコ画など、ヨーロッパの美術館のようです。ただ古く美しいだけでなく、回廊型の建物の中庭に天井を設けてMusic Libraryとしたり、地下通路を設けて新設された学習用図書館へ直接行けるようにするなど、利用の便にあわせた改装も適宜行なわれているようです。
 このSterling Memorial Libraryは人文・社会系の総合図書館ですが、学内には他にも貴重書専門のBeinecke図書館など、計22の図書館があります。

 East Asia Libraryが管理を担当する東アジア言語資料は、全体で約70万冊。うち日本語資料が約25.6万冊で、年間約5000冊増加しています。リーディングルーム及びオフィスはSterling Memorial Libraryの2階に位置し、日中韓各言語による参考図書・雑誌、及び英語で東アジア分野の参考図書・雑誌が配架されています。それ以外の図書は、日本語・中国語・韓国語各資料とも、すべてSterling Memorial Library館内の一般書架に、英語等の西欧言語資料と同様に請求記号順に混配されています。この混配は1949年、日中韓各言語のコレクションがまだそれほど多くなかったと思われる頃に開始されたものです。その後、これらを別置する案もあがったようですが、コストの問題などから実現せず、現在に至っています。
 学内には、東アジア言語・文学の部局以外には、東アジア分野を専門とする独立した部局はありません。学生・研究者は歴史であれば歴史の、人類学であれば人類学の各分野の部局にわかれて所属するかたちになります。これら学内各所に散ったファカルティ・メンバーによってEast Asia Councilが組織されており、研究者のほか、美術館のキュレーター、ライブラリアン等が参加しています。
 Yaleにおける東アジアコレクションの歴史は、1870年代にAddison Van Nameがコレクションをスタートさせたことに端を発します。日本語のまとまった蔵書は1873年O.C.Marshによって寄贈されました。その後、歴史学者として有名な朝河貫一が初代東アジアコレクション部長を兼任し、LC(米国議会図書館)とYaleとの依頼を受けて、日本語資料の集中的な購入・収集を行ないました。これにより約22000冊の和書が収められ、その後のEast Asia Libraryにおける日本語資料コレクションの基礎となります。
 このときに収集された和書のうち、古典籍資料にあたるものはほとんどがBeinecke図書館(古典籍・写本専門の学内図書館)に収蔵されています。Japanese Manuscript Collection(朝河貫一による収集、中世史料700タイトル・1200冊)のほか、Yale Association of Japan Collection(1930年代の収集・寄贈、11世紀東大寺文書、太閤検地文書、経典、奈良絵本)など。また、Sterling Memorial Library館内には文書類を管理するManuscripts & Archives部署があり、朝河貫一の書簡・日記等が収められています。

 Yale University Libraryは現在、Microsoftの蔵書デジタル化プロジェクトに参加しています。著作権の切れた英語図書が対象で、作業を行なうのはKirtas(http://www.kirtas-tech.com/)。スキャンされたデータはMicrosoft Live Searchで検索可能となり、大学側でもそのデータを保持することになります。対象図書は10万冊に及びますが、それでも「少ない」と言う人もいます。蔵書デジタル化事業についてはどの大学も積極的に取り組んでいるようです。日本語資料については、前述のYale Association of Japan Collectionが東京大学史料編纂所によってデジタル化され、現在はBeinecke図書館のデジタル画像データベースで公開される予定です。

24. Harvard Depositoryと自動書庫システム

 以前ハーバード大学の保存書庫・Harvard Depository(HD)についてご紹介しました(http://www2.kulib.kyoto-u.ac.jp/harvard-diary/?p=42)が、この記事をご覧になった方から、「ハーバードでは”自動書庫システム”は採用されないのか」というご質問をいただきました。

 Harvard Depository
 http://hul.harvard.edu/hd/
 自動書庫システムを採用している奈良県立図書情報館
 http://www.library.pref.nara.jp/jido/index.html
 自動書庫ブックロボ(金剛株式会社)
 http://www.kongo-corp.co.jp/seihin/index_jidou.html

 当日我々を案内してくださったHDのアシスタント・ディレクターの方に、お話をうかがってみました。

・自動書庫システムは、利用者用の公共スペースを充分に増やすのに、効果的であると思う。実際、自分が数年前に訪れたとある大学の図書館でも、自動書庫システムを採用していて、捻出できたスペースを学生の勉強場所として提供していた。
・ただし、その機械が蔵書に与えかねないダメージについては、慎重に考えざるをえない。実際にダメージを受けている本を複数の図書館の自動書庫システムで見てきた。ある図書は、出納システムに対応させるため、直接マーカーでナンバーが書き記されていた。長い道のりをかけて運搬される間の振動も非常に気掛かりで、本の製本状態を悪くし、寿命を短くしかねない。(もちろん、開架書架の本もまた、利用者の乱暴な取り扱いによって傷む可能性がある。)
・さらには、自動書庫システムであってもHD方式であっても、運搬し、ケースに納めるのは人間のスタッフである。彼らがいかに本を丁寧に取り扱うかが重要であり、そのためのトレーニングが充分になされなければならない。
・我々が採用している方法(HD方式)は、利用頻度が極めて低い資料に対して有効なものである。良く使われる資料については逆にコストがかかるばかりである。
・HDの次期増設の際には、自動書庫システムを導入するかどうかも検討に加えることになるだろう。

 前回ご紹介しましたように、HDは「資料を永年保存すること」という使命を果たすために造られた施設ですので、彼が資料へのダメージという短所を重く受け止めているのも当然のことだと思います。一方で、資料の永年保存よりも、効率的な出納や学習場所の確保を優先させる、という考えを持った大学や図書館であれば、自動書庫システムは有効な技術のひとつであると言えるでしょう。
 重要なのは、技術があるから、それが最新だから採用する、ということではなく、その図書館にとって最も優先して守るべきものがはっきりしているかどうか、そして、その使命を果たすのに最適な方法は何か、ということではないかと思います。