24. Harvard Depositoryと自動書庫システム

 以前ハーバード大学の保存書庫・Harvard Depository(HD)についてご紹介しました(http://www2.kulib.kyoto-u.ac.jp/harvard-diary/?p=42)が、この記事をご覧になった方から、「ハーバードでは”自動書庫システム”は採用されないのか」というご質問をいただきました。

 Harvard Depository
 http://hul.harvard.edu/hd/
 自動書庫システムを採用している奈良県立図書情報館
 http://www.library.pref.nara.jp/jido/index.html
 自動書庫ブックロボ(金剛株式会社)
 http://www.kongo-corp.co.jp/seihin/index_jidou.html

 当日我々を案内してくださったHDのアシスタント・ディレクターの方に、お話をうかがってみました。

・自動書庫システムは、利用者用の公共スペースを充分に増やすのに、効果的であると思う。実際、自分が数年前に訪れたとある大学の図書館でも、自動書庫システムを採用していて、捻出できたスペースを学生の勉強場所として提供していた。
・ただし、その機械が蔵書に与えかねないダメージについては、慎重に考えざるをえない。実際にダメージを受けている本を複数の図書館の自動書庫システムで見てきた。ある図書は、出納システムに対応させるため、直接マーカーでナンバーが書き記されていた。長い道のりをかけて運搬される間の振動も非常に気掛かりで、本の製本状態を悪くし、寿命を短くしかねない。(もちろん、開架書架の本もまた、利用者の乱暴な取り扱いによって傷む可能性がある。)
・さらには、自動書庫システムであってもHD方式であっても、運搬し、ケースに納めるのは人間のスタッフである。彼らがいかに本を丁寧に取り扱うかが重要であり、そのためのトレーニングが充分になされなければならない。
・我々が採用している方法(HD方式)は、利用頻度が極めて低い資料に対して有効なものである。良く使われる資料については逆にコストがかかるばかりである。
・HDの次期増設の際には、自動書庫システムを導入するかどうかも検討に加えることになるだろう。

 前回ご紹介しましたように、HDは「資料を永年保存すること」という使命を果たすために造られた施設ですので、彼が資料へのダメージという短所を重く受け止めているのも当然のことだと思います。一方で、資料の永年保存よりも、効率的な出納や学習場所の確保を優先させる、という考えを持った大学や図書館であれば、自動書庫システムは有効な技術のひとつであると言えるでしょう。
 重要なのは、技術があるから、それが最新だから採用する、ということではなく、その図書館にとって最も優先して守るべきものがはっきりしているかどうか、そして、その使命を果たすのに最適な方法は何か、ということではないかと思います。