9. 本を大切にしてほしい — 資料保存啓発グッズ

 アメリカのたいていの大学図書館には、資料保存・修復を専門にする部署があります。古典籍・歴史的資料のケアだけでなく、近代酸性紙資料への対応、書庫環境・資料取り扱いなどについての学内各図書館への指導・アドバイスといったことを行なっています。アメリカの司書の方と話をしていると、何かにつけてこういった資料保存部署に言及されることが多く、頼りにされている存在であろうことがうかがえます。

 今回は、ハーバード大学のWeissman Preservation Center & HCL Preservation作成の資料保存啓発グッズについてご紹介します。

Library preservation at Harvard
http://preserve.harvard.edu/index.html

 ↓図書館内で資料が水濡れしてしまったとき、24時間体制で緊急体制してくれる連絡先が書かれた、マグネットプレート(ほぼ原寸大)です。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/products_magnet.gif

 ↓本をコピーするときの注意事項が書かれた、縦長のポスター。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/products_photocopying.gif

 ↓図書館資料を守るための15の基本的な注意事項が書かれた、ポスター。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/product_15ways.jpg

 ↓借りていく本が雨雪に濡れないようにするための、ビニールバッグ。利用者用です。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/products_rainy_day_bag2.gif

 これらを見ていると、どれも、ただ単に事実や注意事項を知らせるためのものというだけではなく、目に留めてもらえやすいような、使ってもらえやすいような工夫を加えることによって、そのお知らせをより効果的に広めようとしている、ということがわかります。
 例えば、水濡れ対応のプレートは非常に小さくかつマグネットなので、机の脇や書類棚など、どんな場所にでも気軽に何気なく貼っておくことができます。私が勤める図書館内でも、どこでどんな作業をしていてもこれを目にしない日はないくらいに、あらゆる場所に当たり前のように貼られています。だからこそ、ひとたび何か事が起こったときには、即座にその連絡先へ連絡することができるという効果があるのではないでしょうか。また、コピー機の周辺は何かと手狭で空きが少ないものですが、このポスターのように縦長であれば、幅広のポスターに比べて場所をとることなく、上手に掲示しておくことができるように思います。
 15の注意事項が書かれたポスターや雨雪用のビニールバッグは、図書館グッズとは思えない(?)、自らすすんで使いたくなるような、感じのよいデザインと色遣いで仕上げられています。その書かれている内容や本来の使用目的に関わらず、このポスターであればそのデザインだけでもちょっと貼っておこうかなという気になりますし、ビニールバッグもすすんで使おうという気になるのではないでしょうか。単に○○図書館とだけ書かれた無粋なビニール袋をぶらさげて歩き回るのはごめんだというような学生でも、それなりのデザインがあしらわれたバッグなら、借出時だけでなく返却の際にも抵抗なく使ってもらえるかもしれません。
 事務的な姿勢や無機質な言葉だけでは、伝わる情報量にも限りがあります。本当に知ってほしいこと、使ってもらいたいものがあるのならば、相手の事情を察した配慮や、気持ちをひきとめるような感動が必要なのではないでしょうか。