18. 居たくなる図書館 — ラモント図書館

 ハーバード大学のラモント図書館は、1949年、米国内で初めての学部生向け学習用図書館として設立されました。前回ご紹介したカフェ以外にも、学生のニーズに応える様々な設備・サービスを提供しています。

Lamont Library
http://hcl.harvard.edu/libraries/#lamont

●ノートPCの館内貸出
 ラモント図書館では、館内のみで利用可能なノートPC(全14台)の貸出サービスを行なっています。学部学生のみ、1回につき3時間まで。Microsoft Officeを搭載していますので、レポートやプレゼンテーションファイルの作成などもできます。また、館内のほぼ全域から無線LANにアクセスできるようになっており、ハーバードIDとパスワードを持っていればインターネットへのアクセスが可能です。さらには、その無線LAN経由で、館内のプリンターからプリントアウトすることもできます。プリントアウトは有料で、クリムゾンキャッシュ(学生証とそのIDにお金を入金しておき、学内各種サービスでの支払いが可能なシステム)で支払います。
 貸出は無料なのですが、返却が1分遅れるごとに2セントの罰金。24時間延滞すると、1500ドルが請求されます。

●コースリザーブ
 授業で用いられ、学生が必ず読んでおかなければならないという図書・論文について、図書館であらかじめ準備しておき、受講している学生に時間限定で貸し出す、というサービスです。
 学生は、MyHarvardと呼ばれる学内Webサービスに自分のIDとパスワードでログインし、受講しているコースのリザーブ資料リストを確認することができます。そのリストには、デジタル化されたものがあればそのファイルへの、なければ図書館目録へのリンクが貼られています。学生は自分に必要な資料を確認し、オンラインで読むか、ラモント図書館で受け取ります。
 リザーブされている図書は、受講している他の学生にも提供しなければならないため、1人あたり3時間までしか貸し出していません。ここでも1分遅れるごとに1セントの罰金が科せられます。

●24時間開館
 平日の24時間開館が始まったのは、2005年の秋からです。開館時間は、月−木:0:00-24:00、金:0:00-21:45、土:8:00-21:45、日:8:00-24:00。

24 hours in Lamont Library (Flash Photo Gallery)
http://www.news.harvard.edu/gazette/gallery/060209_lamont/index.html

 地下2階にあるレファレンス・デスクも、夜間のサービスを行なっています。月−木:9:00-23:30、金:9:00-17:00、土:10:00-17:00、日:13:00-23:30。
 なお、ラモント図書館のすぐ隣には、キャンパス内及びその近郊を走るシャトルバスの停留所があり、早朝から夜半まで運行しています。また、Harvard University Porice Departmentという学内警察組織によるCampus Escort Serviceもあります。

●リーディングルーム
 館内にはGinsberg Reading RoomとDonatelli Reading Roomの2つの大閲覧室があります。

Lamont Library : Carrels and study spaces (写真あり)
http://hcl.harvard.edu/info/study_spaces/index.html#lamont

 Ginsberg Reading Roomはカフェと同じ1階の奥のほうにあり、2階までの吹き抜けになっています。ただ、吹き抜けとはいっても、もともと1階・2階とも天井までの高さがそれほど低くなく、また床がカーペット敷きであることもあって、音が響いて騒がしいということはありません。床から天井まで届く窓が複数箇所あって、植木、ベンチや、ツタに覆われた赤煉瓦を眺めることができます。ソファ50席の他、キャレル(1人席)50席、2人席10席、4人席24席。学生の意見が反映されたというインテリアのデザインは、前回紹介したカフェと同じく、街中のコーヒーショップを思わせるものです。
 3階にあるDonatelli Reading Roomのインテリアも同じデザインですが、こちらはソファが10席程度で、キャレル60席、2人席40席。1階のGinsberg Reading Roomがくつろぎながら勉強するという環境であるのに対し、こちらはひとり静かに集中して勉強するための場所、という位置付けのようです。
 なお、院生向けの専門的な図書館によく見られるキャレル(1人席)のリザーブは、こちらでは行なわれていません。

 最後に、ラモント図書館が新入生に配布したガイダンス資料の中に、以下のような一節がありましたので、ご紹介しておきます。

“Students come to Lamont for lots of other reasons, though: to congregate between classes in the Lamont Library Cafe, to study quietly through the night, to watch the snow fall from a comfortable chair in our Ginsberg Reading Room on the main floor. Sometimes they come here just because Lamont is a warm and welcoming place.”

17. 本と、コーヒーと、快適な居場所 — 図書館カフェ

 USA TODAYのWebサイトに、9月27日付けの記事として、米国内の大学図書館にスターバックスをはじめとするコーヒーショップが出店している様子について、レポートされています。

「Something else to check out at library: Starbucks」(USA TODAY, 2007/9/27)
http://www.usatoday.com/money/industries/food/2007-09-27-starbucks_N.htm

 今回は、ハーバード大学内にある2軒の図書館内カフェ — ワイドナー図書館のカフェとラモント図書館のカフェについて、ご紹介します。

 学内図書館の中心的存在であるワイドナー図書館には、地下に小さなカフェがあります。テーブル席・ソファ合わせて40席ほど。営業時間は07:30−14:30。図書館の平日の開館時刻は09:00ですし、そもそも地下のほとんどは職員のオフィスで、閲覧室や書架はありませんので、主に館内職員がターゲットの休憩室ととらえるべきでしょう。とはいえ、利用者も自由に利用できる施設ですので、軽食をとったりリフレッシュしたりしたいときにはありがたい存在であると言えます。ちなみに、先日10月1日にリフレッシュ・オープンしたばかりです。
 経営しているのは、学内のカフェ・食堂やケータリング等の事業を受け持っている、Harvard University Dining Service。取り扱われている商品は、コーヒー、お茶、ソフトドリンク、パンやサンドイッチ、パックのサラダ、寿司、果物、スナック類。日替りスープもあります。時間外で店員がいないときでも、自販機(ドリンクやスナック・サンドイッチ類を販売)やエスプレッソ・マシン(セルフサービス)が利用できます。電子レンジも備え付けてあり、持ち込んだお弁当を温めて昼食をとっている人もいました。

 対して、学部生向け・学習用図書館であるラモント図書館のカフェは、入口ゲートを通ってすぐ右手。書架・閲覧室のあるエリアに隣接した位置にあります。生垣やオブジェが並ぶ中庭に面していて、全面ガラス張りで眺めもよく、館内の”一等地”と言えるでしょう。ソファやランプシェードなどのインテリアは、街中のコーヒーショップのような落ち着いたデザインのもので統一されています。テーブル席が約60席、ソファが約20席。コーヒーや軽食をとりながら、本を読んだり、自習をしたり、グループでディスカッションをしたりと、気持ちよくリラックスして勉強ができる空間になっています。

Lamont Cafe (写真あり)
http://www.dining.harvard.edu/campus_restaurants/restaurants_lamont.html

 カフェ内には、自由に利用できるデスクトップPCが6台。自分のPCを持ち込んで無線LANにアクセスすることも可能です。また、このラモント図書館ではノートPCを館内貸出するサービスも行なっています。
 新聞ラックや新着雑誌架もこのカフェ内にありますので、気軽にブラウジングしながらくつろぐことができます。雑誌は約120タイトル。各分野のレビュー誌・コア誌(Library Journal, Writer’s Digest)、ハーバードの学会誌・レビュー誌(Harvard Business Review)、一般誌(TIME, National Geographic, The New Yorker)、娯楽・趣味誌(Vogue, Wired)などがならんでいます。さて、ここで注意しておきたいのは、このラモント図書館はコース・マテリアルの提供など、あくまで学習支援に特化した図書館であり、必ずしも資料の保存に重きを置いているというわけではない、という点です。実際この新着雑誌架にならんでいる雑誌も、その多くはバックナンバーが一定期間までしか保存されていないようです。このような機能の特化が背景にあってこそ、飲食自由なカフェと図書館資料とが同じ室内で共存できているのだと思います。
 なお、館内で食べ物を食べてよいのはこのカフェの中だけ、飲み物は蓋で密閉されたいれものであれば持ち出してもよい、というルールになっています。また、このカフェと通常の書架・閲覧エリアとはガラス扉で仕切られていて、音や話し声がカフェの外へ漏れないように配慮されています。
 経営しているのは、ワイドナー図書館と同じくHarvard University Dining Serviceで、扱われている商品もほぼ同じ。店員がいない時間外には自販機・エスプレッソマシンが利用可能である点も同じです。但し、決定的にちがうのはその営業時間(店員が詰めている時間)で、こちらは15:00−翌02:00。というのも、このラモントは24時間開館している図書館で、学生が主に活動している(と思われる)午後から夜半まで営業してくれている、というわけです。実際に私が訪ねたときも、お昼のランチタイムは意外に人が少なく、一方、午後9時頃にはほぼ満席。さすがに午前2時の様子までは確認できませんでしたが、夜遅くまでみな熱心かつ活発に勉強、もしくはおしゃべりしていました。(なお、金・土は図書館・カフェともに21:45に閉館します。)

 最後にもうひとつ留意しておきたいのが、ハーバード学内にはこのような図書館カフェに限らず、学生が学習場所として利用できるコモン・スペースが多数存在している、という点です。ラモント図書館のカフェは確かに人気の高い場所のようですが、かといって、大勢が押し寄せてしまって混雑しているとか、場所取りや順番待ちで居心地が悪いなどというようなことは決してありません。学内には、誰でもが自由に使っていいコモン・スペースが至るところにあって、テーブル・イス・ソファなどが並んでいます。そこでは、この図書館カフェと同じように自習やグループ・ディスカッションができますし、学内共通の無線LANを通じてインターネットにアクセスすることも可能です。時には、学生が教員から指導を受けている様子を見ることもできます。このように、学生の居場所としてのコモン・スペースが充分に用意されているキャンパスだからこそ、図書館内にカフェを設置しても人々が殺到することなく、適度に快適な空間を保つことができているのではないでしょうか。
 図書館カフェは、たんに図書館内の客寄せ施設としてではなく、キャンパス内の”居場所”を構成する空間のひとつとしてとらえられるべきだろうと思います。

16. 毎日がオリエンテーション — GSASオリエンテーション

 新年度に入ってから行なわれている各種図書館オリエンテーションのうち、大学院生向けのGSAS(Graduate School of Arts and Sciences)オリエンテーションについて、少し詳しくご報告します。
 これは図書館のみ個別のものではなく、住居や保険に関する部署などと合同で行なわれる全体的なオリエンテーションです。各部署がテーブルに陣取って、訪れた学生の質問やリクエストに応える。学生は学生で、自分の必要な情報をそれぞれの部署に自ら出向いて情報を入手する、といった具合です。部署によってはグッズやチョコレート・キャンディを配ったり、ルーレットや抽選でiPodなどの景品が当たりますよと宣伝するなど、オリエンテーションというよりもフェスティバルといった雰囲気で、たいへんな混雑でした。

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 この建物の中の1室を使って、HCL(Harvard College Libraries)による院生向けの図書館オリエンテーションが行なわれました。午後の間に2回・1時間づつ、1回の参加者は80人ほどで、部屋の広さ・座席数もほぼ同程度でした。
 まずHCLの中心であるWidner図書館のライブラリアンにより、学内図書館サービスの概要、HOLLIS(ハーバード大学の蔵書検索データベース)などの検索方法といった、概括的なガイダンスが行なわれます。続いて、Scienceの図書館、Geospatialの図書館というように、各部局図書館からのライブラリアンがそれぞれ説明を行ないます。その内容も、ある人は所蔵する古典籍資料のデジタル画像紹介、ある人は情報収集の心得といったように、多岐にわたる総花的なものでした。
 その後、その場に列席していた学内各部局図書館からのライブラリアン、およそ30人ほどが、ひとりづつ簡単な自己紹介を行ないます。ある人は自分の専門分野を述べたり、ある人は今日こんなハンドアウトを持参して来ています、というようなことをアピールしていました。
 以上、40分強ほどでガイダンスは終了し、解散となりました。

 ここまでですと、日本の大学図書館で見られる光景とそれほど変わらないのですが、印象的な場面を目撃したのはこのあとでした。
 7〜8割ほどの学生はざわざわと退室するのですが、何人かの学生は個々に、或いは固まって、先ほど自己紹介をしたライブラリアンのもとに向かっていくのです。私の近くにいたイェンチン図書館のe-resource担当レファレンス・ライブラリアンのところにも何人かの学生が近寄ってくるので、様子をうかがっていると、「私は○○で、○○についての勉強をするつもりで、○○を探していて・・・・・・」というような相談を持ちかけています。話しかけられたライブラリアンもそれに応えて、「それには○○というデータベースがあって、それについてはこのハンドアウトに詳しく書いてあって・・・・・・」といった説明をして、名刺や自作資料を手渡したり、レファレンスデスクには何曜日の何時に出ているというようなことを伝えたりしていました。

 このように、オリエンテーションやレファレンスが単なる連絡事項や一過性の1問1答に終わるのではなく、学生・研究者とライブラリアンとによるコミュニケーションまたは人間関係形成の一環としてやりとりされている様子を、こちらに来てからたびたび目にしています。
 ある図書館での館内ツアーに同行したときも、案内役のライブラリアンが参加した学生に「あなたの研究テーマは?」「クラスではどんなことをやっている?」などとしきりにインタビューしては、それに応じた蔵書紹介を行なっていました。もちろんライブラリアン自身が、自分の専門分野、オフィスの場所、レファレンスデスクにいる曜日と時間を示して、どうぞ相談に来てくださいとアピールするのは当然のことのようです。また利用者側も、「自分の研究テーマは○○で、時代はいつ頃です」「前の大学では○○をやっていました」「来年のいつまでに論文を提出する予定です」といったような自分のプロフィールを、ライブラリアンに対して積極的に述べている様子も、何度か目撃しました。
 利用者にとってもライブラリアンにとっても、自分にとって有益な/自分が役に立てる相手を見つけては、今後も随時相談にのってもらえる/のってあげられるよう、能動的に人間関係を築いていく、というひとつの”マナー”を垣間見たような気がします。
 そういった意味では、図書館のオリエンテーションというのは、事務連絡・情報伝達のための行事でも、教育の一環でも、制度としての図書館サービスでもなく、”コミュニケーションの場”のひとつではないだろうか。そして、自分の専門分野が何か、求めているものが何か、与えられるものが何かを、互いに明確に伝えるというコミュニケーション・スキルが充分にあれば、オリエンテーションのシーズンが過ぎても、どのようなタイミングででも、容易に関係を築けるのではないか。そのようなことを考えました。

 さて、この院生向け図書館オリエンテーションでは、お土産として参加者全員にUSBメモリが配られました。これが何に使われるのかについては、後日またあらためてご報告したいと思います。

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