8. 日米”勉強会”事情

 7/20、全学の図書館員向けのオープンな勉強会のひとつとして、「ALA Report」という簡単な報告が行なわれたので、話を聞いてきました。これは、”Cataloging Discussion Group”という学内のグループが催したもので、先のALA年次大会で行なわれた目録に関するミーティングの模様・内容を、実際に参加した人たちがそれぞれ報告し、情報共有をはかろうとするものでした。

 ここハーバード大学の図書館では、学内のライブラリアンによる勉強会・報告会・講演会のようなものが、かなり頻繁に行なわれています。これまでいくつかの会に出席してみて、日本(京大)で行なわれているそれと比べていくつか違う点がある、ということがわかってきました。
 今回はその違いについて、いくつかご報告してみたいと思います。

・口頭のみの発表が多い。
 日本だと昨今ではちょっとしたことでもPowerpointが登場するのが当たり前のようになってきました。が、こちらでは、学内の会で3回に1回くらい、大規模だったALA年次大会でも半数くらいしか、Powerpointによるプレゼンテーションを見かけませんでした。
 さらに、配布資料を配るというのも意外に少ないようです。配られたとしても、A4用紙1枚に題目・プロフィール・抄録といった簡単なものが書かれているくらいです。Powerpointを丸ごと印刷したり、内容のアウトラインを詳細に書き上げたりといったものは、これもALA年次大会でもほとんど見かけませんでした。
 これには、内容がわかりづらいというデメリットもありますが、発表者にとっては準備の負担がかからないというメリットもあるようです。また、聴く側に本当に知りたい情報があれば、自らディスカッションに参加したり積極的に発表者にコンタクトをとったりするといった習慣が根付いているからかもしれません。

・回数が多い。
 10日に1回くらいの頻度で何かしらのセッションが行なわれているようです。案内のメールも頻繁に届きます。誰かが得た情報、蓄積した知見は、それぞれオープンにし、互いにシェアすること。それによって、WIN-WINの関係を築き上げていくこと。そういう活動に価値を置くという考えが浸透しているのだと思われます。
 そのかわり1回が1時間、長くなっても1時間半くらいで終わります。準備の負担を少なく、時間を短くするかわりに、回数を多くすることが、こまめで柔軟な情報共有につながる、ということではないでしょうか。

・質疑応答・ディスカッションの時間が長い。
 発表者の発表が30分くらいで、それと同じか、時には長いくらいの時間、質疑応答とディスカッションが行なわれます。あちこちから手が上がり、意見が交わされます。終わってみて、今日の主役は発表者ではなかったな、という印象を持つこともありました。
 発表者が”講師”、聴く側は”受講者”というように立場が分かれてしまうのではなく、あるいは”上”から”下”へ教えるという流れでもなく、それぞれが持っている情報と意見を互いにやりとりしあう。そういう姿勢が上手な情報共有を可能にしているのではないかと思います。

・ランチタイムに行なわれる。
 時間設定が12時〜13時30分というパターンがよくあります。このときには、めいめいが自分のランチ(サンドイッチやフルーツなど)を持ってきて、昼食をとりながら人の話を聴く、という形になります。もちろん、12時前には職場を離れ、戻るのは14時前になります。

・Catalogingに関するテーマが多い。
 学内の勉強会では、Catalogingがテーマであるものが全体の半数を超えています。ひとつには、レファレンス・ライブラリアンはそのサブジェクトごとに情報共有する必要があり、全学レベルで行なわれにくいのに対し、Catalogingは必要とされるスキルが比較的標準化されており、全学レベルでのテーマにふさわしいためではないかと思われます。

7. Harvard Depository

 ハーバード大学には、学内の図書館が共同で利用している保存書庫“Harvard Depository”(HD)があります。6つの書庫・約1000万冊分の書棚から成るこの保存書庫は、大学のメインキャンパスであるハーバード・ヤードから西へ40kmほどの郊外に位置しています。
 ここには各図書館の蔵書のうち、利用頻度の比較的低いものが納められています。とはいえ、決して“不要なものを追いやるための場所”という位置付けではなく、あくまでも「資料を長期間確実に保存すること」が第1のミッションです。そのため、紙に適した温度・湿度設定だけでなく、フィルム媒体専用のストレージ、UVカットの蛍光灯など、資料保存のための基本的な環境管理が徹底されています。

 Harvard Depository
 http://hul.harvard.edu/hd/

 HDに収蔵されている資料を利用したいときには、ハーバード大学のOPAC(「HOLLIS」)から申し込むことができます。

 HOLLIS
 http://hollis.harvard.edu/

(1)簡易検索画面でキーワードを入力。
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(2)結果一覧からひとつを選択。
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(3)書誌詳細画面。
 「Location」の欄に「この本はHarvard Depositoryにある」という所蔵情報が出ています。
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 ここで、「Availability」のリンクをクリックします。

(4)所蔵詳細画面。
 資料の所有者は「Harvard-Yenching」、置いてある場所は「Harvard Dpository」、現在「借り出されてない」状態で、利用規則として「通常の貸出が可能」であることがわかります。
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 この本をリクエストするために、「Request」と書いてあるリンクをクリックします。

(5)個人認証画面。
 学内の各種Webサービスに共通のPINシステムです。
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 ここで自分のID番号・パスワードを入力し、ログインします。

(6)ログインすると、リクエストのための画面に戻ります。
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 下のほうにあるリストから、求む資料をどの図書館で受け取りたいかを選ぶ。自由に選べるというわけではなく、資料によっては特定の場所が指定されています。

(7)リクエストが受け付けられました。
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(8)自分のリクエストした資料の確認画面。
 「Request status」に「In Process」とあるのがわかります。
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(9)資料が指定の図書館に届くと、その旨のメールが送信されます。
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Patron ID: ID******

The following item, which you requested on 06/07/2007, is now available for pick-up at Harvard-Yenching:

Makino, Yasuko.: Japanese rare and old books : annotated bibliographical guide of reference works / by Yasuko Makino.. Tokyo : Hobundo, 1977.. 76 p. ; 26 cm..

Pick-Up Sublibrary: Harvard-Yenching
Owning Sublibrary: Harvard-Yenching
Collection: Harvard Depository
On hold until: 06/20/2007
PLEASE NOTE: Regular loan (depository)

Please note: Due to high volume, some libraries may require 30 minutes of additional processing time after this notice is sent.
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 今回の例では、前の日の午後に発注して、翌日の午後に入手できました。

6. 日本からの情報発信・資料提供についての要望・意見

 6月のALA年次大会参加とともに、ワシントンDC周辺及びその旅程途中にある図書館・大学(Princeton University, University of Maryland, Library of Congress, National Library of Medicine, Freer Gallery of Art)をいくつか訪問・見学してきました。図書館の概要、利用実態、特色あるサービスなど、さまざまなことについてお話をうかがってきました。
 今回はその中から特に、日本から発信されている学術情報・資料のあり方や入手について、いただいたご要望・ご意見をとりまとめてご紹介します。

・科研費報告書を、その大学の図書館で責任持って収集・所蔵・目録登録するようにしてほしい。役に立つし、依頼も多いのに、所蔵館がなかなか見つからないことが多い。その研究者・研究グループが所属している大学の図書館なのに、所蔵していない、情報が入手できないというのはおかしいのではないか。結局、その研究者の連絡先を探し、直接問い合わせて入手するというパターンが多い。
・データベースの使い勝手がよくなり、文献情報を知ることが容易になった分、逆に現物資料へ到達できない、入手できないことへの不便さが目立つ。問い合わせをしても返事がいつまでも返ってこず、待たされた挙句に謝絶されることが多い。
・NDLのサービスがここ数年で飛躍的によくなって、とても感謝している。近代デジタルライブラリーは多くの人に利用されている。またWebを介してのILLサービスも非常に助かっている。レファレンスを依頼したときも、とても丁寧かつスムーズに対応してもらった。
・雑誌資料の電子化について。日本の資料電子化は、他国(特に中国・韓国が国の威信をかけて行なっているのに比べて)かなり遅れている。必要な、需要の多い雑誌が電子化されず、そうでない雑誌ばかりが電子化されているように見える。できるものからとりあえず電子化するというのではなく、よく使われる基本的な雑誌を選別した上で計画的にやってほしい。
・医学部の図書館のように、本来古典籍資料をメインで取り扱う分野でない図書館が、所蔵している古典籍資料についてまったく整理されていない、情報を公開してくれないことが多い。
・日本の書誌データベースは、基本的にそのままコピーして使えるというわけではないが、参考にはなっている。著者名典拠情報が特に有用。逆に、同じ資料でも図書と雑誌でレコードが分かれていること、及び、件名が整備されていないのが難点。もちろん、OCLCなどに収録されて利用できるようになれば非常に助かる。特に灰色文献・研究成果物などの、一般に流通していない資料について。
・データベースの契約について。日本の業者が作成・提供しているデータベースは、海外から契約するにあたって条件や規制が多い(または海外からの契約が考慮されていない)ほか、高額であるため、契約が極端に難しいことが多い。国内の情報資源を海外に広めるという姿勢が、他国(これも特に中国・韓国)が旺盛で積極的であるのに対し、日本は何故か消極的に思える。特に大学図書館で提供すれば、そのデータベースを使い慣れた学生は卒業後も企業・研究機関でも利用するようになるわけだから、需要を増やすチャンスであるということを理解してほしい。

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