15. 新年度がスタート! — 図書館オリエンテーション

 9月に入り、新年度を迎えたハーバード大学はにわかに活気づいてきました。

 新しくハーバードにやってきた学生・研究者のみなさんを対象に、学内のあちらこちらの図書館でオリエンテーションが開催されています。対象も内容もさまざまですが、できるだけ傍聴してきました。

※Widener図書館ツアー (毎日午後)
 通常は毎週木曜日午後3時からのみの館内ツアーを、この時期に限り、毎日行なうというもの。図書館の歴史、館内の設備、書庫の構成など。日によって10人以上の参加者があることもあれば、誰も来なくて流れることもある。

※GSASオリエンテーション (9/12午後)
 HCL(Harvard College Libraries)による院生向けのオリエンテーション。(GSASはGraduate School of Arts and Sciencesの略。) 図書館以外の全種のオリエンテーションと同じ建物内で行なわれる。ガイダンスが2回、1時間づつ。1回の参加者は80人ほど。

※Lamontフレッシュマン・オープンハウス (9/13午後)
 Lamont図書館(学部生用学習図書館)による、学部新入生向けのイベント。館内の簡単なツアーのほか、各種資料の配布と説明が行なわれる。館内は風船で飾られ、スタッフは皆”You@Lamont”と書かれたおそろいのTシャツを着て、参加者にはスナックやドリンク、USBメモリがあたるチケットを配るなど、お祭り色が強い。ただ、学生の姿があまり見られず、なんとなく閑散とした印象を受ける。配布資料は、HOLLISの使い方、図書館のディープな使い方、本をCriticalに読むための方法など。

※イェンチン図書館のオリエンテーション (9/12午後)
 学内各所から、東アジア研究を行なっている研究者・学生約100人が参加。全館の概説と、日・中・韓・ヴェトナムそれぞれに分かれての館内ツアー。

※イェンチン図書館のオリエンテーション詳細版 (9/13・9/14)
 上記のオリエンテーションではカバーできなかった実用的な情報について、具体的に説明するもの。学内コンピュータ環境の概説、HOLLISの詳細な利用方法(CJK文字やローマ字の説明含む)、e-research Portalでの各種データベースやRefworksの利用法など。1回につき約1時間で、20人ほどが参加。今年初の試みとして行なわれた。

 次回はこの中から「GSASオリエンテーション」について少し詳しくご報告します。

14. 資料のWeb公開に伴う責務 — Image Use Protocol Task Force

 8月29日、NCC(North American Coordinating Council on Japanese Library Resources:北米日本研究資料調整協議会)内のタスクフォースのひとつである、Image Use Protocol Task Forceのミーティングが行なわれ、傍聴させていただくことができました。
 古典籍資料や古文書、美術・博物資料といったものの写真を、論文内で引用するなどして出版物に掲載する場合、所蔵機関の許諾を得るなどの手続きが必要となります。日本では出版社や編集社が行なうことが多いようですが、アメリカでは多くの場合、執筆者である教員・研究者自身がその手続きを取ることを求められるそうです。誰に対してどのような手続きをとればいいか判らず戸惑った日本研究の教員・研究者が、日本分野のライブラリアンに相談に来ることが多いため、どのような対応をとればよいかの情報交換、調査、書類ひな型やガイドラインの作成などを行なおう、というのが、このタスクフォースの目的であるようです。

 NCC Image Use Protocol Task Force
 http://www.fas.harvard.edu/~ncc/imageuse.html

 ほぼ1日をかけて行なわれたミーティングのうち、1時間半ほどしか傍聴する機会がなかったのですが、それでもその短い間に、

 ・申請方法や書式がまちまちで、判りにくい。
 ・申請方法やポリシーが明示されておらず、電話で問い合わせなければならない場合が多い。
 ・有料の場合、クレジットカード払いができない場合が多い。支払いに手間がかかる上に、手数料が高額になってしまうことがある。
 ・日本とアメリカで著作権法が異なる。例えば、アメリカでは著作権が切れるのは著作権者の死後70年、日本では50年のため、日本では手続きが不要とされている資料なのに、アメリカではそれを出版できない、というケースがある。
 ・プランゲ文庫(メリーランド大学)がWebで公開している書類が参考になる。

 といった様々な話題があがりました。その対象は図書館・美術館のような組織ばかりではなく、寺社や個人コレクションのようなところにも及ぶため、個々で異なる対応を求められる煩雑さ、判りにくさはかなり大きいようです。
 私自身、数年前に京都大学電子図書館の貴重資料画像(学内の古典籍資料のイメージファイルをWebで公開したもの)を管理・運営する業務を担当しており、国内外から多数の”画像使用許可願い”を受け付け処理するという立場にありました。海外からこういった申請を行なうにあたっていろいろご不便をおかけしたのではないか、と恐縮しながら話を聞いていましたが、出席者のお一人から、「京都大学の貴重資料画像に対して利用申請をしたときは、手続き方法がわかりやすく、対応も迅速で助かった」とのコメントをいただき、安堵しました。
 図書館がWebで所蔵資料やその画像を公開するとき、単に公開して自由に見てもらうだけで終わり、ということには決してなりません。必ず、原資料の閲覧、複写物の依頼、二次使用の許諾申請といった様々なリクエストを伴うことになりますし、しかもそれは公開直後から相当の期間継続していきます。古典籍や文書類などの画像ファイルに限らず、論文・報告書など機関リポジトリの類に納められた文書ファイルであっても、同様のことが言えます。
 様々な資料のWeb公開のおかげで、探しやすく、アクセスしやすくなった分だけ余計に、そういったリクエストにどれだけ迅速に対応できるか、ポリシーを明確かつ透明に提示できるか、といったことがより一層求められるようになるのではないでしょうか。

 メリーランド大学プランゲ文庫 複写サービス
 http://www.lib.umd.edu/prange/html/reproduction.jsp

 京都大学電子図書館に関わる著作権・リンク・二次利用について
 http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/copyright.html

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