22. 日米をつなぐライブラリアン — East Asian Studies Collection (UMass Amherst) その2

 今回ご案内くださったSharon Domierさん(East Asian Studies Librarian, University of Massachusetts Amherst)は、日本分野を専門とするライブラリアンです。現在、論文誌『大学図書館研究』の編集委員を務め、日本でもたびたび講演を行なっておられます。
 Domierさんは週5日のうち、3日をUMass Amherstで、1日をAmherst Collegeで、1日をSmith College(Amherst近くの街・Northampton)で勤めています。選書・発注指示・目録がメインの業務で、加えてサブジェクト・レファレンス、授業による教育活動を行なっています。

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 Sharon Domierさんに、ご自身の普段の活動、日本の大学図書館・図書館員や情報サービスについてのご意見・ご感想などをうかがってみました。

●ライブラリアンとしての身分について
・UMassでは、制度上、ライブラリアンと教員がほぼ同じ身分として扱われている。
・ライブラリアンはその経験と業績によって、Librarian 1からLibrarian5まで順にステップアップしていく。ステップアップには、経験の蓄積や論文発表などの業績が必要で、これが仕事をする上でのモチベーションにつながっていく。
・大学によっては、ライブラリアンと補助スタッフとの身分が同じで、ステップアップもしていかないというところもある。

●日本の目録・書誌データベースについて
・日本分野の学生・教員が実際に使っているのは、主にOCLC・WorldCATと早稲田大学OPACのWINE。NACSISWebCAT/plusはその次。
・WorldCATやWINEは、NDL-OPAC・WebCATとちがってローマ字を表示してくれる、また出版社名のヨミを確認することができる。特に教員は、英語で書いた論文のレファレンスリストに出版社名をローマ字で記述しなければならず、その際にWorldCATやWINEが非常に重宝する。

●Webによる学術情報発信について
・特に、科研費報告書や博士論文の入手が難しく、それらが積極的にデジタル化され、インターネットでアクセスできるようになってくれるとよい。ただ、機関リポジトリにあるかどうかを調べるというようなことは、あまりやっていない。なにをどう検索すれば自分が望むものが見つかるのかが、まだよくはっきりしない。収録されてくれるようになれば助かる。
・近代出版物でも、古典籍資料でも、図・絵・写真など画像データがあるほうがいい。研究対象としても、プレゼン・発表用資料としても、教育用教材としても、画像は重要で、よく使われる。それらを上手に探せるようなサイトがあったり、検索できるツールがあったりするのがよい。
(註:NewYork Public Library(http://digitalgallery.nypl.org/nypldigital/dgkeysearchresult.cfm?word=Academic%20costume&s=3&notword=&f=2)のWebサイトなど、資料全体がデジタル化されているものだけでなく、資料内の挿絵・図・写真部分のみがピックアップされて、画像データベースとしてWeb公開されている例が多い。)

●日本のライブラリアンへのメッセージ
・アメリカの日本分野ライブラリアンと、日本の大学図書館員との交流の場、特に個人同士としての交流の場が持てるとよい。Domierさん自身も、大学図書館研究の編集委員を務めるまでは、日本の図書館員と交流を持つきっかけがほとんどなかった。
・そのためには、メールやWebでの交流もひとつの手段ではあるが、やはりお互いが実際に出会うこと。ACRLなどの会議に出席すること。ポスターセッションなど積極的な発表・活動を行なうことなどがよい。

21. 日本分野の学習を支える図書館 — East Asian Studies Collection (UMass Amherst) その1

 University of Massachusetts Amherstでは、East Asian Studies LibrarianであるSharon Domierさんにご案内いただき、様々なお話をうかがってきました。今回はEast Asian Studies Collection、Reference Reading Roomの様子や日本語資料の利用の実態について、ご報告します。

 University of Massachusetts Amherst, East Asian Studies Collection
 http://www.library.umass.edu/subject/easian/

●概要
・East Asian Studies CollectionとReference Roomが独立したものとして成立したのは、約40年前。East Asian Studies分野以外に独立したReference Roomを持つところはない。
・現在、W.E.B Du Bois Library内の21-22階に位置する。
・東アジア全体で約5万冊。うち日本語資料約2万冊。英語・西洋言語の東アジア関連資料は、一般のコレクションとして取り扱われている。
・請求記号・分類はLC分類を採用。日本語資料・中国語資料・韓国語資料を別々に配架することはなく、混配している。
・教員の研究分野が現在はほとんど文学分野であるため、蔵書も文学分野が中心になっている。

●資料の選択
・学生教材に適した資料として、絵・写真の多いビジュアルな資料、読みやすく振り仮名の多い大活字本、短くて楽しみながら読めるショートショート作品などを集めている。
・視聴覚資料として、日本映画のDVDを収集している。できるだけ英語字幕のあるものをそろえたいが、そのようなDVDはそれほど多くない。
・マンガも購入したいが、どれをそろえればよいかの選択が難しい。

●資料の購入・入手の問題点
・日本語資料の購入には、紀伊國屋書店などの代理店を通す。代理店を通すとドル立てで支払いができるが、直接日本の業者(古書店等)と取引しようとすると郵便振替などを求められることが多く、支払いができないため、入手もできない。特に美術館・博物館などの図録の入手が難しい。流通ルートにのっていないので、代理店経由では購入できず、直接購入しようとしても支払方法が限られていて購入できないことが多い。古書店にしろ美術館などにしろ、あらゆる場面でクレジットカードでの支払いが普及してくれるようになると、入手できる資料の幅が格段に広がって助かる。
・米国内の他大学の重複本や、日本の大学の重複本などを寄贈してもらうことが多い。

●ILL
・ILL依頼は、学生・教員が直接ILL部署に依頼する。Bibliographyの授業(別途あらためて紹介します)を受講していれば、学生でも日本語資料の書誌を正確に特定して依頼することができるようになる。
・ILL部署に届いた依頼のうち、ISBN・ISSNのないもの、資料の特定が難しいもの、特殊な機関への依頼を要するものなど、日本情報に関する専門知識が必要なものについて、相談を受ける。
・GIFはよく利用しているが、NDLへの依頼は割高でFAXや電子送信がされないので、ほかで見つからないときのみ利用している。

●目録
・東アジアコレクションのOPACへのデータ収録率は約80%。カード目録も現役で提供している。
・OCLCに参加。目録登録にあたってはOCLCの書誌を利用している。OCLCでは現在早稲田大学やTRCからの書誌データを利用できるため、かなり助かっている。
・ただ、できるだけ北米内ILLではまかなえないような資料を選んで購入していることもあって、OCLCに書誌がなくオリジナル作成をしなければならない例も少なくない。

●The Benjamin Smith Lyman Collection
・Benjamin Smith Lyman (1835-1920、Amherst近くの街・Northampton出身)のコレクション。明治時代に、北海道開拓のための技術顧問(地質学・鉱業学)として、来日(1872年)。鉱脈調査や公共事業関連の仕事を務める。几帳面な観察者で、大量の資料・詳細な記録を残している。
・全体で約4100冊の図書のうち、約1800冊が和装本。ほかに地図約120点、地質調査ノート、家計簿、名刺コレクション、書簡などが残る。
・和装本の書皮が数多く残されており、保存状態も非常に良い。(和装本の書皮は、日本の図書館では残されていないことが多い。)

 

20. 学習活動のすべてをまかなう — Learning Commons (UMass Amherst)

 11月7日・8日、Amherstという街にあるUniversity of Massachusetts Amherst(以下、UMass Amherst)を訪れ、図書館の見学や日本語クラスへの参加などをさせていただきました。
 Amherstは、ボストンから西へ約100キロ、UMass Amherst、Amherst Collegeなど5つの大学が集まる、比較的小さな大学街です。
 州立大学であり、この街ではもっとも最大規模であるUMass Amherstは、学部学生約2万人、院生約2000人、教員約1000人。その広大なキャンパスのほぼ中心にあるのが、地上28階建てのW.E.B. Du Bois Libraryです。

 University of Massachusetts Amherst
 http://www.umass.edu/
 W.E.B. Du Bois Library
 http://www.library.umass.edu/

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 このUMass Amherstの図書館について話題になっているのが、近年新しくオープンしたLearning Commonsという施設です。これは、従来の図書館閲覧室・閲覧席のようにただ机といすのあるスペースだけを与えるのではなく、「そこにいるだけで学習活動のほとんどをまっとうできる場所」の提供を目的として設けられたものです。図書館とテクノロジーとキャンパス・サービスを融合させること。学生の日常的な学習・共同活動・コミュニケーションを環境としてサポートすることなどが、方針として掲げられています。その施設・サービスの充実ぶりと成功の様子は、日本でも注目されています。

 Learning Commons
 http://www.umass.edu/learningcommons/
 「UMASS Amherst 校図書館視察報告」(井上創造)
 https://qir.kyushu-u.ac.jp/dspace/bitstream/2324/8090/1/2006_006.pdf
 「インフォメーション・コモンズからラーニング・コモンズへ:大学図書館におけるネット世代の学習支援」(米澤誠, カレントアウェアネス No.289)
 http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=1036

 図書館はこのLearning Commonsも含めて平日24時間開館しており、学生はいつでも好きなだけここに滞在することができます。学生の多くはキャンパス内の寮で生活しているので(1年生は入寮が義務)、朝晩を問わず利用できるこの施設はたいへん評判が良いようです。
 図書館の地階全体、面積約25000平方フィートのエリア内に、テーブル・一人席・グループ学習室・ソファなど、総計5-600人分ほどの席が用意されています。学習席のほとんどには計200台のデスクトップPCが備え付けられています。また館内には無線LANが設けられていますので、持参したラップトップPCや貸出用ラップトップPCを好きな場所で使うことができます。ソファやいすにはキャスターがついていて、学生が自分たちの使いやすいように席をアレンジできる、という配慮もされていました。また、17あるグループ学習室は声が漏れないようにガラスで囲われ、壁付のホワイドボードも用意されていて、ディスカッションには最適の場所です。とはいっても、もともとここでは”静かにすること”は求められておらず、むしろグループ学習・共同作業ができることを前提とした場所ですので、学生同士のおしゃべり・ディスカッションは当たり前のように行なわれています。
 エリア内にはその他にも、コピー機、プリンター、FAX、デジタル・スキャナなどがあります。自動販売機では、飲み物・食べ物・スナックのほか、ノートやCD-Rといった文具・小物類を買うこともできます。1階にはカフェもあり、Learning Commonsへ持ち込んでの飲食も自由です。ケータイでのおしゃべりはエレベーターホールのほか、cell phone boothというケータイ専用の小部屋で、と決められています。
 なお、PCやソファなどのほとんどは、寄付金を募ることによってまかなわれたものであるとのことです。

 さらに注目すべきは、ライブラリアンや学生スタッフらによる学習支援サービスです。Learning Commons内にはいくつかのサービスデスクやセンターがあり、学部学生の学習をそれぞれの方法でサポートしています。
 例えば、「Writing Center」が行なうWriting Supportは、学生のレポート・作文・論文などの執筆についてサポートしてくれるサービスです。このセンターには充分なトレーニングを受けた院生・学部生スタッフがいて、レポートなどの課題を抱えた学生に対し、文章の構成方法や読みやすさ・文体・文法などについて、相談にのったり個人レッスンをしたりといった形で手助けをしてくれます。「Writing Center」は、そもそも図書館とは異なる学内部署による教育プログラムであり、かつては学生会館に居を構えていたのですが、このLearning Commonsの設置を機に館内でサービスを行なうことになったそうです。
 「Career Services」は学内のCareer Services部署が設けた出張デスクで、就職情報の提供、個別相談、インターンシップやワークショップのコーディネイト、模擬面接やレジュメ作成の指導などを行ないます。また、「Academic Advising」も同じく学内の学生サービス部署が設けた出張デスクです。どちらもLearning Commonsの設置を機に、学生会館から館内にデスクを移転させました。
 なお、Learning Commonsとは別ですが、図書館10階には「Learning Resource Center」があり、特に学部1-2年生の学習指導を行なっています。ノートのとり方、学習の進め方などの基本的なスキル習得についてのサポートのほか、必要に応じて補習を行なったりもしています。
 ライブラリアンが詰めているのは、「Learning Commons and Technical Support Desk」と「Reference & Research Assistance」です。前者は3交代制のライブラリアンと学生スタッフが常時待機して、総合的なサービス・管理を行なっています。後者のほうでは、レファレンス・ライブラリアンが深夜まで学習・研究のサポートを行なっています。PCコーナーに隣接していて、何人かの学生が気軽に相談を持ちかけていました。個別相談に応じることができる小部屋も設けられています。

 この図書館を利用している学生に、実際に感想を聞くことができました。
 「寮の部屋や自宅より集中できる」「プリンタなど、自分の持っていない機器を利用できる」など、評判は良さそうでした。実際の利用を見てみると、Microsoft Officeでレポートやプレゼン資料を作成していたり、2-3人で話をしながら何かをしていたり、スキャナを利用したりと、従来の図書館閲覧室から一歩踏み込んだ活用がされているようです。統計によれば、当初の予想に反して、早朝でもそれなりの数の学生が来館利用している、という話も聞きました。
 ただ、学生の声でいくつか気になった点があります。ひとつは「人が多くて落ち着かない」というものでした。これについては、館内に「Quiet Study Area」が2箇所設けられています。Learning Commonsは確かに成功した施設かもしれませんが、それひとつ用意していれば事足りる、という短絡的な考え方ではなく、学生の多様なニーズに合わせた柔軟な姿勢が不可欠なのではないかと思います。
 もうひとつは「Learning Commonsでグループ学習などをしていても、参考図書などの本が必要になって、結局はその本がある閲覧室へ移動する」というものでした。Learning Commonsのある場所はもともと参考図書やマイクロフィルムが置かれていたエリアであり、その多くを書庫などにしまいこむことで捻出されたスペースです。が、それでもなお基礎的な参考図書はいまでも相当数がLearning Commons内に配架されています。PCに向かって検索したりレポートを書いたりしている学生たちの傍らには、分厚い本やテキストブック、プリント類が並べられていました。検索ツールの多くがオンライン化しつつあるとはいえ、授業の課題として図書にあたることを課題として与えられることもまだまだ多いのだと思います。席やPCだけでなく、書架に並ぶ図書へも24時間アクセス可能であることが、この図書館の強みであるように見えました。
 この施設の名前は、”Information Commons”でも”Learning Space”でもなく、”Learning Commons”です。ネットで情報を収集し、PCで編集すること。本にあたって知識を獲得すること。そして、人と人とがコミュニケーション・ディスカッションで刺激を与え合い、教え教わること。どの要素が欠けても”Learning Commons”とは呼べないのではないかと思います。

 

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