25. Yale University Library

 Yale University(イェール大学)は、1701年設立、全米で3番目に古い歴史を持つ大学です。ニューヨークから北東へ約100キロのニューヘイブンという街にあります。研究やスポーツなどにおいて、ハーバード大学とは何かとライバル関係に挙げられる存在のようです。学生数約13000人、研究者約3000人。図書館の蔵書数は約1250万冊に及びます。
 11月の終わり、Yale Universityの中央図書館であるSterling Memorial Library、およびその中にあるEast Asia Libraryを訪問してきました。

 Yale University Library
 http://www.library.yale.edu/

 Sterling Memorial Libraryは1930年の建物ですが、ゴシック様式の教会をモチーフとしてデザインされています。ステンドグラス、柱や壁の彫り物、メインカウンター付近に掲げられたフレスコ画など、ヨーロッパの美術館のようです。ただ古く美しいだけでなく、回廊型の建物の中庭に天井を設けてMusic Libraryとしたり、地下通路を設けて新設された学習用図書館へ直接行けるようにするなど、利用の便にあわせた改装も適宜行なわれているようです。
 このSterling Memorial Libraryは人文・社会系の総合図書館ですが、学内には他にも貴重書専門のBeinecke図書館など、計22の図書館があります。

 East Asia Libraryが管理を担当する東アジア言語資料は、全体で約70万冊。うち日本語資料が約25.6万冊で、年間約5000冊増加しています。リーディングルーム及びオフィスはSterling Memorial Libraryの2階に位置し、日中韓各言語による参考図書・雑誌、及び英語で東アジア分野の参考図書・雑誌が配架されています。それ以外の図書は、日本語・中国語・韓国語各資料とも、すべてSterling Memorial Library館内の一般書架に、英語等の西欧言語資料と同様に請求記号順に混配されています。この混配は1949年、日中韓各言語のコレクションがまだそれほど多くなかったと思われる頃に開始されたものです。その後、これらを別置する案もあがったようですが、コストの問題などから実現せず、現在に至っています。
 学内には、東アジア言語・文学の部局以外には、東アジア分野を専門とする独立した部局はありません。学生・研究者は歴史であれば歴史の、人類学であれば人類学の各分野の部局にわかれて所属するかたちになります。これら学内各所に散ったファカルティ・メンバーによってEast Asia Councilが組織されており、研究者のほか、美術館のキュレーター、ライブラリアン等が参加しています。
 Yaleにおける東アジアコレクションの歴史は、1870年代にAddison Van Nameがコレクションをスタートさせたことに端を発します。日本語のまとまった蔵書は1873年O.C.Marshによって寄贈されました。その後、歴史学者として有名な朝河貫一が初代東アジアコレクション部長を兼任し、LC(米国議会図書館)とYaleとの依頼を受けて、日本語資料の集中的な購入・収集を行ないました。これにより約22000冊の和書が収められ、その後のEast Asia Libraryにおける日本語資料コレクションの基礎となります。
 このときに収集された和書のうち、古典籍資料にあたるものはほとんどがBeinecke図書館(古典籍・写本専門の学内図書館)に収蔵されています。Japanese Manuscript Collection(朝河貫一による収集、中世史料700タイトル・1200冊)のほか、Yale Association of Japan Collection(1930年代の収集・寄贈、11世紀東大寺文書、太閤検地文書、経典、奈良絵本)など。また、Sterling Memorial Library館内には文書類を管理するManuscripts & Archives部署があり、朝河貫一の書簡・日記等が収められています。

 Yale University Libraryは現在、Microsoftの蔵書デジタル化プロジェクトに参加しています。著作権の切れた英語図書が対象で、作業を行なうのはKirtas(http://www.kirtas-tech.com/)。スキャンされたデータはMicrosoft Live Searchで検索可能となり、大学側でもそのデータを保持することになります。対象図書は10万冊に及びますが、それでも「少ない」と言う人もいます。蔵書デジタル化事業についてはどの大学も積極的に取り組んでいるようです。日本語資料については、前述のYale Association of Japan Collectionが東京大学史料編纂所によってデジタル化され、現在はBeinecke図書館のデジタル画像データベースで公開される予定です。

24. Harvard Depositoryと自動書庫システム

 以前ハーバード大学の保存書庫・Harvard Depository(HD)についてご紹介しました(http://www2.kulib.kyoto-u.ac.jp/harvard-diary/?p=42)が、この記事をご覧になった方から、「ハーバードでは”自動書庫システム”は採用されないのか」というご質問をいただきました。

 Harvard Depository
 http://hul.harvard.edu/hd/
 自動書庫システムを採用している奈良県立図書情報館
 http://www.library.pref.nara.jp/jido/index.html
 自動書庫ブックロボ(金剛株式会社)
 http://www.kongo-corp.co.jp/seihin/index_jidou.html

 当日我々を案内してくださったHDのアシスタント・ディレクターの方に、お話をうかがってみました。

・自動書庫システムは、利用者用の公共スペースを充分に増やすのに、効果的であると思う。実際、自分が数年前に訪れたとある大学の図書館でも、自動書庫システムを採用していて、捻出できたスペースを学生の勉強場所として提供していた。
・ただし、その機械が蔵書に与えかねないダメージについては、慎重に考えざるをえない。実際にダメージを受けている本を複数の図書館の自動書庫システムで見てきた。ある図書は、出納システムに対応させるため、直接マーカーでナンバーが書き記されていた。長い道のりをかけて運搬される間の振動も非常に気掛かりで、本の製本状態を悪くし、寿命を短くしかねない。(もちろん、開架書架の本もまた、利用者の乱暴な取り扱いによって傷む可能性がある。)
・さらには、自動書庫システムであってもHD方式であっても、運搬し、ケースに納めるのは人間のスタッフである。彼らがいかに本を丁寧に取り扱うかが重要であり、そのためのトレーニングが充分になされなければならない。
・我々が採用している方法(HD方式)は、利用頻度が極めて低い資料に対して有効なものである。良く使われる資料については逆にコストがかかるばかりである。
・HDの次期増設の際には、自動書庫システムを導入するかどうかも検討に加えることになるだろう。

 前回ご紹介しましたように、HDは「資料を永年保存すること」という使命を果たすために造られた施設ですので、彼が資料へのダメージという短所を重く受け止めているのも当然のことだと思います。一方で、資料の永年保存よりも、効率的な出納や学習場所の確保を優先させる、という考えを持った大学や図書館であれば、自動書庫システムは有効な技術のひとつであると言えるでしょう。
 重要なのは、技術があるから、それが最新だから採用する、ということではなく、その図書館にとって最も優先して守るべきものがはっきりしているかどうか、そして、その使命を果たすのに最適な方法は何か、ということではないかと思います。

23. 日本を学ぶ学生たち — UMassでの日本分野講義

 University of Massachusetts Amherstには、日本分野を専門にしている教員が現在6人います。学生は、専攻している学生が約100人、日本語クラスの取得者は約200人とのことです。
 ライブラリアンのSharon Domierさんにご紹介いただいて、いくつかの授業に参加させていただくことができました。アメリカの州立大学で日本語や日本文化について学ぶ学生たちが、どのような授業を受けているかについて、ご紹介します。

●変体仮名の講読
 変体仮名(くずし字)を原資料で読む講読の授業です。主に古典文学を専攻する院生が20人弱参加しています。私がお邪魔したときは、竹取物語の写本を読んでいました。週1回・40分の授業で、8週目だそうですが、予習の段階でほぼ読めているようでした。
 ここではいい勉強方法があれば教えてほしいと求められましたので、京都大学電子図書館の貴重資料画像(http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/index.html)を紹介し、現代語訳や英訳を読んでから原資料にとりかかる方法、同じ作品をちがう資料を使って複数回読む方法、漢字にふりがなのある資料を読んで漢字を覚える方法などを紹介しました。

●Bibliographyの授業
 学部4回生・院生を主な対象とした授業で、図書・論文を検索して見つけることができるようになることを目的としたものです。ライブラリアンのSharon Domierさんが講師を務め、図書館内のPCクラスルームで行なわれています。半年の授業で、週3回なのですが、例えば課題として以下のような問題が出されていました。
「谷崎潤一郎の短編小説で英題を“The Thief”という作品の、原題は何か。また、この英訳が収録されている図書と、日本語の原作が収録されている図書を、それぞれ示しなさい。」
 この授業を受講した学生は、ILLや購入依頼の際、書誌を正確に示すことができるようになるそうです。
 NDL-OPACやWebCAT/plusで書誌を確かめたあとで、OCLC・WorldCATを検索して米国内の所蔵があるかどうかを確認すること、などが紹介されていました。そこで私のほうから「WebCAT/plusの書誌からOCLC・WorldCATの書誌へのリンクがあれば便利では?」と提案してみたところ、そうなってくれると非常に助かる、との声をいただきました。
 また、CiNiiの検索結果から本文へのリンクがあるが、アクセスできないことが多く、なぜアクセスできないかがわからない、そもそもアクセスできるのかできないのか自体もわかりにくい、との意見がありました。

●Media Japan
 インターネット上の資料を使って、日本語力をブラッシュアップするという授業です。新聞社サイトの記事・社説や、ニュース映像やテレビ番組のストリーミング、ブログ記事などを使っていました。
 よく使うWebサイトは何かを尋ねたところ、Wikipedia、goo辞典などが挙げられました。日本語の習得には映画やテレビドラマを見るのが非常に効果的だそうです。また、出席していた学生のほとんどがmixiを利用していました。

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