7. Harvard Depository

 ハーバード大学には、学内の図書館が共同で利用している保存書庫“Harvard Depository”(HD)があります。6つの書庫・約1000万冊分の書棚から成るこの保存書庫は、大学のメインキャンパスであるハーバード・ヤードから西へ40kmほどの郊外に位置しています。
 ここには各図書館の蔵書のうち、利用頻度の比較的低いものが納められています。とはいえ、決して“不要なものを追いやるための場所”という位置付けではなく、あくまでも「資料を長期間確実に保存すること」が第1のミッションです。そのため、紙に適した温度・湿度設定だけでなく、フィルム媒体専用のストレージ、UVカットの蛍光灯など、資料保存のための基本的な環境管理が徹底されています。

 Harvard Depository
 http://hul.harvard.edu/hd/

 HDに収蔵されている資料を利用したいときには、ハーバード大学のOPAC(「HOLLIS」)から申し込むことができます。

 HOLLIS
 http://hollis.harvard.edu/

(1)簡易検索画面でキーワードを入力。
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(2)結果一覧からひとつを選択。
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(3)書誌詳細画面。
 「Location」の欄に「この本はHarvard Depositoryにある」という所蔵情報が出ています。
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 ここで、「Availability」のリンクをクリックします。

(4)所蔵詳細画面。
 資料の所有者は「Harvard-Yenching」、置いてある場所は「Harvard Dpository」、現在「借り出されてない」状態で、利用規則として「通常の貸出が可能」であることがわかります。
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 この本をリクエストするために、「Request」と書いてあるリンクをクリックします。

(5)個人認証画面。
 学内の各種Webサービスに共通のPINシステムです。
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 ここで自分のID番号・パスワードを入力し、ログインします。

(6)ログインすると、リクエストのための画面に戻ります。
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 下のほうにあるリストから、求む資料をどの図書館で受け取りたいかを選ぶ。自由に選べるというわけではなく、資料によっては特定の場所が指定されています。

(7)リクエストが受け付けられました。
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(8)自分のリクエストした資料の確認画面。
 「Request status」に「In Process」とあるのがわかります。
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(9)資料が指定の図書館に届くと、その旨のメールが送信されます。
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Patron ID: ID******

The following item, which you requested on 06/07/2007, is now available for pick-up at Harvard-Yenching:

Makino, Yasuko.: Japanese rare and old books : annotated bibliographical guide of reference works / by Yasuko Makino.. Tokyo : Hobundo, 1977.. 76 p. ; 26 cm..

Pick-Up Sublibrary: Harvard-Yenching
Owning Sublibrary: Harvard-Yenching
Collection: Harvard Depository
On hold until: 06/20/2007
PLEASE NOTE: Regular loan (depository)

Please note: Due to high volume, some libraries may require 30 minutes of additional processing time after this notice is sent.
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 今回の例では、前の日の午後に発注して、翌日の午後に入手できました。

6. 日本からの情報発信・資料提供についての要望・意見

 6月のALA年次大会参加とともに、ワシントンDC周辺及びその旅程途中にある図書館・大学(Princeton University, University of Maryland, Library of Congress, National Library of Medicine, Freer Gallery of Art)をいくつか訪問・見学してきました。図書館の概要、利用実態、特色あるサービスなど、さまざまなことについてお話をうかがってきました。
 今回はその中から特に、日本から発信されている学術情報・資料のあり方や入手について、いただいたご要望・ご意見をとりまとめてご紹介します。

・科研費報告書を、その大学の図書館で責任持って収集・所蔵・目録登録するようにしてほしい。役に立つし、依頼も多いのに、所蔵館がなかなか見つからないことが多い。その研究者・研究グループが所属している大学の図書館なのに、所蔵していない、情報が入手できないというのはおかしいのではないか。結局、その研究者の連絡先を探し、直接問い合わせて入手するというパターンが多い。
・データベースの使い勝手がよくなり、文献情報を知ることが容易になった分、逆に現物資料へ到達できない、入手できないことへの不便さが目立つ。問い合わせをしても返事がいつまでも返ってこず、待たされた挙句に謝絶されることが多い。
・NDLのサービスがここ数年で飛躍的によくなって、とても感謝している。近代デジタルライブラリーは多くの人に利用されている。またWebを介してのILLサービスも非常に助かっている。レファレンスを依頼したときも、とても丁寧かつスムーズに対応してもらった。
・雑誌資料の電子化について。日本の資料電子化は、他国(特に中国・韓国が国の威信をかけて行なっているのに比べて)かなり遅れている。必要な、需要の多い雑誌が電子化されず、そうでない雑誌ばかりが電子化されているように見える。できるものからとりあえず電子化するというのではなく、よく使われる基本的な雑誌を選別した上で計画的にやってほしい。
・医学部の図書館のように、本来古典籍資料をメインで取り扱う分野でない図書館が、所蔵している古典籍資料についてまったく整理されていない、情報を公開してくれないことが多い。
・日本の書誌データベースは、基本的にそのままコピーして使えるというわけではないが、参考にはなっている。著者名典拠情報が特に有用。逆に、同じ資料でも図書と雑誌でレコードが分かれていること、及び、件名が整備されていないのが難点。もちろん、OCLCなどに収録されて利用できるようになれば非常に助かる。特に灰色文献・研究成果物などの、一般に流通していない資料について。
・データベースの契約について。日本の業者が作成・提供しているデータベースは、海外から契約するにあたって条件や規制が多い(または海外からの契約が考慮されていない)ほか、高額であるため、契約が極端に難しいことが多い。国内の情報資源を海外に広めるという姿勢が、他国(これも特に中国・韓国)が旺盛で積極的であるのに対し、日本は何故か消極的に思える。特に大学図書館で提供すれば、そのデータベースを使い慣れた学生は卒業後も企業・研究機関でも利用するようになるわけだから、需要を増やすチャンスであるということを理解してほしい。

5. ALA2007レポート

 6月21日から28日まで、ALA(アメリカ図書館協会)の2007年年次大会がワシントンDCにて開催されました。約3万人のライブラリアンが集まり、約400の講演、分科会、イベント等が行なわれました。同時に40を超える数の分科会が行なわれる時間帯もあり、どれに参加するかを決めるのはかなり難しいものでした。

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 私が参加した分科会のうち、いくつかについてご報告します。

●「It’s Showtime for Instruction Librarians: The Making of Short Films for Marketing and Instruction」

 情報リテラシー教育活動に自作の動画・映像を取り入れている図書館による報告です。紹介・発表されたのは、Valdosta State University, Odum Library Media Serviceの作品と、Indiana University South Bend, Franklin D. Schurz Libraryの作品・知見でした。

・Valdosta State University, Odum Libraryのショートフィルムのページ
 http://books.valdosta.edu/media/library_films.htm
・”Crime & Punishment”
 http://cinema.valdosta.edu:8080/ramgen/
 rdevane/library_videos/crime_punishment.rm
 (注:最初の1分ほど無音の状態ですが、その後スタートします。)

 ”情報に関する罪”で投獄された女子学生の、言い訳と苦悩、裁判の様子を描いた、フィクション仕立ての動画です。学生たちが軽はずみな気持ちで行ないがちな盗用、剽窃、安易なコピー&ペーストなどに警鐘を鳴らす目的で作られた作品です。脚本がしっかりと練られていて、エンターテイメント性が強く、学生に受け入れられやすい作りになっています。会場のライブラリアンたちからも繰り返し爆笑が起こっていました。
 ちなみに日本では、亜細亜大学がかなり以前から作成、Web公開している図書館ツアービデオがあり、こちらもかなり作りこまれています。もちろん、もっと手軽または簡潔な動画は、国内・海外を問わず多数公開されています。

・Indiana University South Bend, Franklin D. Schurz Libraryの今分科会用ページ
 http://www.iusb.edu/~libg/ala/2007/LI/

 Indiana University South Bendのライブラリアンによる「Making movies @ IU South Band」という発表については、Powerpointファイルやその他の資料が上記のページで公開されています。
 こちらで紹介された作品は、”Crime & Punishment”のようなエンターテイメント性の強いものではなく、スタンダードな内容のものです。

Boolean Operators

How to find and locate a book

 実際のプランニングに関する話や、技術面の知見も上記ページで公開されており、実際に動画作成にとりかかろうとするにあたっては非常に参考になるのではないかと思います。また、学生のアンケート結果を見ると、説明のわかりやすさについて、「書架の本をどうさがすか」ではマイナス評価がなかったのに、「キーワードサーチとフレーズサーチの違い」ではマイナス評価がいくつかあった、ということがわかります。

●「Wiking the Blog and Walking the Dog – Social Software, Virtual Reality, and Authority Everywhere」

 Webベース、特にWeb2.0と呼ばれる機能を有効利用したサービスについて、事例報告などが行なわれた分科会でした。ここではAnn Arbor District LibraryのJohn Blyberg氏によるSOPACの報告と、Norwich UniversityのMeredith Farkas氏のプレゼンテーションについて、ご紹介します。

・Ann Arbor District LibraryのOPAC
 http://www.aadl.org/catalog
・John Blyberg氏のblogと資料
 http://www.blyberg.net/
 http://www.blyberg.net/files

 ミシガンのAnn Arbor District Libraryで構築・提供されている「SOPAC(SocialOPAC)」について、管理者のJohn Blybergによるプレゼンテーションが行なわれました。(SOPACについては2007.1.25のCarrent Awarenessを参照)
 このSOPACでは、利用者が自分のIDでOPACにログインし、書誌データにタグ・評価・コメントをつけたり、書誌データをコレクションしたりといったことが可能になります。おもしろいのは「目録カードへの書き込みができる」という機能で、画面に現れた目録カード風の画像の上に、自分で好きなコメントを入力することができます。(例) この他にも、表紙画像の表示、他館所蔵の検索、この本を借りてる人は他にどんな本を借りているのかの表示、などがあります。

 Norwich UniversityのMeredith Farkas氏からは、「Tales from Outside of Public Libraries」というタイトルでのプレゼンテーションが行なわれました。

Tales from Outside of Public Libraries

・Meredith Farkas氏のWebサイト
 http://meredith.wolfwater.com/

 「図書館以外の業界はすでにWeb2.0によるサービスをたくさん提供している。図書館にそれができないはずがない。」という趣旨のもと、図書館以外の業界及び図書館業界の両方から事例が紹介されました。Wikiによる情報ベースの構築、blogによる情報公開、フィードバック・リクエストの受付、flickrによるライブラリーツアーなど。図書館での導入例がまだそれほど多くないものもありますが、どれも「情報を組織化しデータベースを構築する」「利用者からのフィードバックを受け付ける」「運営をガラス張りにする」といった、図書館にとって基本的な考え方に基づくものばかりであるということもわかります。
 最後に、図書館業界以外の人、特に教育・IT技術・ビジネス分野の人たちがどんなふうにSocial Softwareを使っているか、どのような報告をしてくれているかに、耳を傾けることが重要である、ということが語られていました。個々の技術や機能が問題なのではなく、広くアンテナを張り、学ぼうとする姿勢、時宜・目的に応じて柔軟にそれらを採用する心構えが必要である、ということを学びました。

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