10. 快適に仕事をするために — Ergonomic Training Session

 8/15、イェンチン図書館の職員を対象に、Ergonomic Training Sessionが行なわれました。
 ergonomicとは、直訳すると「人間工学」という意味ですが、ここでは職場における各者の健康や身体上の安全に関する考え方を指しています。ハーバード大学内のDepartment of Environmental Health and Safetyという専門の部署から来た講師の方により、デスクワークをしているときに注意するべきことや、イス・机・コンピュータなどの位置・使い方についての指導がありました。

 Department of Environmental Health and Safety
 http://www.uos.harvard.edu/ehs/

 長時間の無理なデスクワーク、とくにコンピュータ中心の仕事では、身体の至るところに様々な悪影響を及ぼす可能性があるということが説明され、それを防ぐための正しい姿勢等について指導がされました。例えばイスひとつにしても、クッションにどのように腰掛ければ足に負担をかけずに済むか、そのためにはクッションの位置をどう調節すればよいか、腰をサポートするためにイスのどの部分をどう調節すればよいか、肩や腕を痛めないために肘掛の高さをどう調節するべきなのか、その調節の結果としてキーボードと腕との位置関係がどうあるべきか、といったことが丁寧に、実演をまじえて判りやすく解説されます。他にも、キーボードのどの位置をよく使うかによってその位置を変えること、電話をよく使う仕事であればヘッドセットを使うこと、文字入力を行なう仕事であればドキュメントホルダーを用いることで身体への負荷を減らすこと、よく使うすべての物を机の手の届く範囲内に配置して、無理に手を伸ばすことなどがないようにすること、などが説明されました。
 最も興味深かったのはラップトップ型PC(ノートPC)に関するトピックスでした。そもそもラップトップ型PCは、キーボードとディスプレイのサイズや位置が固定されてしまっているため、ergonomicという考え方に適合していない代物のようです。それでも使用する際には、引き起こされる身体上の問題を防ぐため、ラップトップスタンド(ラップトップ型PCのディスプレイが目の高さまで来るように、机の上に固定し高さを調節できるスタンド)と、別途接続して使えるキーボードやマウスを使用することが推奨されていました。ですが、それでは基本的にデスクトップ型のPCと変わりがないわけですから、ラップトップ型PCというのは、”持ち運びを頻繁に行なう”という条件下でもない限りは、業務用として使用するには不適切であるということになってしまうのかもしれません。
 このDepartment of Environmental Health and Safetyでは、希望者の都合のよい日時に実際の職場まで出向いて具体的なアドバイスを行なう、というサービスも行なっているそうです。また、講習内容をWebサイトで自習することもできるように準備されています。

9. 本を大切にしてほしい — 資料保存啓発グッズ

 アメリカのたいていの大学図書館には、資料保存・修復を専門にする部署があります。古典籍・歴史的資料のケアだけでなく、近代酸性紙資料への対応、書庫環境・資料取り扱いなどについての学内各図書館への指導・アドバイスといったことを行なっています。アメリカの司書の方と話をしていると、何かにつけてこういった資料保存部署に言及されることが多く、頼りにされている存在であろうことがうかがえます。

 今回は、ハーバード大学のWeissman Preservation Center & HCL Preservation作成の資料保存啓発グッズについてご紹介します。

Library preservation at Harvard
http://preserve.harvard.edu/index.html

 ↓図書館内で資料が水濡れしてしまったとき、24時間体制で緊急体制してくれる連絡先が書かれた、マグネットプレート(ほぼ原寸大)です。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/products_magnet.gif

 ↓本をコピーするときの注意事項が書かれた、縦長のポスター。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/products_photocopying.gif

 ↓図書館資料を守るための15の基本的な注意事項が書かれた、ポスター。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/product_15ways.jpg

 ↓借りていく本が雨雪に濡れないようにするための、ビニールバッグ。利用者用です。
 http://preserve.harvard.edu/education/images/products_rainy_day_bag2.gif

 これらを見ていると、どれも、ただ単に事実や注意事項を知らせるためのものというだけではなく、目に留めてもらえやすいような、使ってもらえやすいような工夫を加えることによって、そのお知らせをより効果的に広めようとしている、ということがわかります。
 例えば、水濡れ対応のプレートは非常に小さくかつマグネットなので、机の脇や書類棚など、どんな場所にでも気軽に何気なく貼っておくことができます。私が勤める図書館内でも、どこでどんな作業をしていてもこれを目にしない日はないくらいに、あらゆる場所に当たり前のように貼られています。だからこそ、ひとたび何か事が起こったときには、即座にその連絡先へ連絡することができるという効果があるのではないでしょうか。また、コピー機の周辺は何かと手狭で空きが少ないものですが、このポスターのように縦長であれば、幅広のポスターに比べて場所をとることなく、上手に掲示しておくことができるように思います。
 15の注意事項が書かれたポスターや雨雪用のビニールバッグは、図書館グッズとは思えない(?)、自らすすんで使いたくなるような、感じのよいデザインと色遣いで仕上げられています。その書かれている内容や本来の使用目的に関わらず、このポスターであればそのデザインだけでもちょっと貼っておこうかなという気になりますし、ビニールバッグもすすんで使おうという気になるのではないでしょうか。単に○○図書館とだけ書かれた無粋なビニール袋をぶらさげて歩き回るのはごめんだというような学生でも、それなりのデザインがあしらわれたバッグなら、借出時だけでなく返却の際にも抵抗なく使ってもらえるかもしれません。
 事務的な姿勢や無機質な言葉だけでは、伝わる情報量にも限りがあります。本当に知ってほしいこと、使ってもらいたいものがあるのならば、相手の事情を察した配慮や、気持ちをひきとめるような感動が必要なのではないでしょうか。

8. 日米”勉強会”事情

 7/20、全学の図書館員向けのオープンな勉強会のひとつとして、「ALA Report」という簡単な報告が行なわれたので、話を聞いてきました。これは、”Cataloging Discussion Group”という学内のグループが催したもので、先のALA年次大会で行なわれた目録に関するミーティングの模様・内容を、実際に参加した人たちがそれぞれ報告し、情報共有をはかろうとするものでした。

 ここハーバード大学の図書館では、学内のライブラリアンによる勉強会・報告会・講演会のようなものが、かなり頻繁に行なわれています。これまでいくつかの会に出席してみて、日本(京大)で行なわれているそれと比べていくつか違う点がある、ということがわかってきました。
 今回はその違いについて、いくつかご報告してみたいと思います。

・口頭のみの発表が多い。
 日本だと昨今ではちょっとしたことでもPowerpointが登場するのが当たり前のようになってきました。が、こちらでは、学内の会で3回に1回くらい、大規模だったALA年次大会でも半数くらいしか、Powerpointによるプレゼンテーションを見かけませんでした。
 さらに、配布資料を配るというのも意外に少ないようです。配られたとしても、A4用紙1枚に題目・プロフィール・抄録といった簡単なものが書かれているくらいです。Powerpointを丸ごと印刷したり、内容のアウトラインを詳細に書き上げたりといったものは、これもALA年次大会でもほとんど見かけませんでした。
 これには、内容がわかりづらいというデメリットもありますが、発表者にとっては準備の負担がかからないというメリットもあるようです。また、聴く側に本当に知りたい情報があれば、自らディスカッションに参加したり積極的に発表者にコンタクトをとったりするといった習慣が根付いているからかもしれません。

・回数が多い。
 10日に1回くらいの頻度で何かしらのセッションが行なわれているようです。案内のメールも頻繁に届きます。誰かが得た情報、蓄積した知見は、それぞれオープンにし、互いにシェアすること。それによって、WIN-WINの関係を築き上げていくこと。そういう活動に価値を置くという考えが浸透しているのだと思われます。
 そのかわり1回が1時間、長くなっても1時間半くらいで終わります。準備の負担を少なく、時間を短くするかわりに、回数を多くすることが、こまめで柔軟な情報共有につながる、ということではないでしょうか。

・質疑応答・ディスカッションの時間が長い。
 発表者の発表が30分くらいで、それと同じか、時には長いくらいの時間、質疑応答とディスカッションが行なわれます。あちこちから手が上がり、意見が交わされます。終わってみて、今日の主役は発表者ではなかったな、という印象を持つこともありました。
 発表者が”講師”、聴く側は”受講者”というように立場が分かれてしまうのではなく、あるいは”上”から”下”へ教えるという流れでもなく、それぞれが持っている情報と意見を互いにやりとりしあう。そういう姿勢が上手な情報共有を可能にしているのではないかと思います。

・ランチタイムに行なわれる。
 時間設定が12時〜13時30分というパターンがよくあります。このときには、めいめいが自分のランチ(サンドイッチやフルーツなど)を持ってきて、昼食をとりながら人の話を聴く、という形になります。もちろん、12時前には職場を離れ、戻るのは14時前になります。

・Catalogingに関するテーマが多い。
 学内の勉強会では、Catalogingがテーマであるものが全体の半数を超えています。ひとつには、レファレンス・ライブラリアンはそのサブジェクトごとに情報共有する必要があり、全学レベルで行なわれにくいのに対し、Catalogingは必要とされるスキルが比較的標準化されており、全学レベルでのテーマにふさわしいためではないかと思われます。

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