37. HCL Technical Services

 3月初め、HCL(Harvard College Libraries) Technical Servicesを訪問・見学してきました。
 アメリカの図書館における業務は、パブリックサービス、テクニカルサービスの大きく2つに分かれます。貸出や参考調査など利用者に直に接しながらサービスを行なうのがパブリックサービス、資料を購入・収集したり、目録を作成して整理・管理したりというのがテクニカルサービスです。
 このHCL Technical Servicesでは、ハーバードのメインライブラリーであるWidener Libraryの資料受入・目録を最大の業務としています。また、学部生用学習図書館であるLamont Libraryの他、学内各図書館・図書室の目録業務をも引き受けており、ハーバード図書館におけるテクニカルサービスの専門部署として機能しています。

 HCL Technical Services
 http://hcl.harvard.edu/technicalservices/

 当部署はハーバードのメインキャンパスから1.5キロほど離れた街中にあり、その場所(マサチューセッツ・アベニュー625番地)から「625」と呼ばれています。2000年に現在の位置に移転し、3階建てビル内の3階・地階を使用しています。テクニカルサービスを行なっている部署は、日本でもアメリカでも狭隘化が問題となり、たくさんの資料や物資に囲まれて手狭な中で仕事をしていることが多いものですが、当部署はフロア全体をテクニカルサービスだけでゆったりと使用しており、資料の仕訳けや搬送もはかどりそうな印象を受けました。この部署全体で、年間6-8万冊が、専任スタッフ75人と学生アルバイトにより処理されるとのことです。

 Widener Libraryの資料を整理する各ディビジョンは、資料の言語・出版国をもとに分かれています。English Division, French/Italian Division, Germanic Division, Spanish/Portuguese Division, そしてAsian/African Divisionです。これをベースに、例えばオランダや北欧の資料はGermanic Division、中南米諸国はSpanish/Portuguese Divisionというように担当されています。これら各Division内で、発注から受入、目録までが一連の流れとして執り行なわれます。
 Widener Libraryには各言語・国・地域を担当するビブリオグラファー(蔵書構築のために資料の選択を行なう専門職)がおり、どの資料を購入するかについてはこのビブリオグラファーが選書します。Technical Services各ディビジョンの発注担当者は、このビブリオグラファーの選書に基づいて発注を行います。資料が到着・納品処理されると、各ビブリオグラファーがこの部署を直接訪れ、現物を手にして中身を確認します。そして、それぞれの資料について「配置はWidener館内にするか、HD(郊外別地書庫)に直接送るか」「支払いにあたってFund(基金)はどれを適用するか」「参考図書に指定するかどうか」などを判断し、スリップなどによって指示をします。カタロガーや装備・搬送担当者はそのスリップに基づき処理をすることになります。
 今回の訪問では、アフリカ地域への発注・収書を担当している方のお話をうかがうことができました。アフリカのすべての国・言語をこの担当者1人でまかなっているとのことですが、安定した出版流通制度が整っていない国・地域が少なくなく、NGOを通して資料を入手するなど、ご苦労が多いようでした。

 目録登録はOCLCのWorldCatを使用して行なわれます。OCLC WorldCatにまだ書誌が存在しない場合には、最小限の書誌事項だけが記録されたミニマルレコードがOPAC内に作成され、資料はいったん地階のバックログ書架に保留されます。地階書架には管理担当者がいて、必要な資料はすぐに取り出せるように整理番号などによって整然と配架されます。例えば、ミニマルレコードを見た利用者からの資料のリクエストは、OPAC経由でこの管理担当者に届き、その資料は至急処理されるべく担当カタロガーに送られます。また、バックログに保留している資料の書誌がOCLC Worldに登場したかどうかが、専用プログラムによって自動的に検出され、これも管理担当者によって順次カタロガーに送られる手筈になっているとのことです。
 かつては10万冊がこのバックログ書架に保留され、問題となっていたようですが、数年前にその解消のためのプロジェクトが集中的に取り組まれています。現在では15000冊ほどがバックログとして収蔵されているとのことでした。

 HCL Technical Servicesには、Cataloging Support Servicesと呼ばれる部署が含まれています。ハーバード学内約30の図書室について、その目録業務を引き受ける、という部署です。対象は、規模が小さくて専任のカタロガーを配置していない図書室など。例えば、イェンチン図書館では、中国語・日本語・韓国語それぞれ専門のカタロガーが館内にいますが、東アジア分野の英語の資料についてはこのCataloging Support Servicesに目録業務を委託しています。7人のスタッフがほぼすべての言語・種類の資料を扱うことになりますが、スタッフでまかなえない言語については先述の各ディビジョンの協力によってカバーしている、とのことでした。

 現在のところ、HCLに属するすべての図書館がこの部署にテクニカルサービスを統合させているわけではありませんが、少しづつその範囲は広げられているようです。イェンチン図書館でも、カタロギングの部署をこの場所に移すかどうかが話題にされていますが、他からの独立性が高いCJK言語資料の処理を、キャンパス外に移してまで統合させるメリットがあるのかが、問題のひとつとなっているようです。例えば最近、このビルの1階にFine Art Libraryのテクニカルサービス部署が移転しましたが、美術関係資料の持つ特殊性からか、その業務・運営は3階の他のDivisionとは独立して行なわれているようでした。

36. オンライン資料を効率的に管理する — E-Resource Management

 【35. オンライン資料の検索を強力にサポート — E-Research@Harvard】でご紹介したE-Resourceや電子ジャーナルについて、利用情報・契約情報などを全学レベルで管理しているのが、E-Resource Management System(ERM)というシステムです。ハーバード大学図書館のDigital Acquisitions and Collections Standing Committeeというところが管理しています。

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36figERM 

 ERM User Guide
 http://hul.harvard.edu/ois/systems/erm/erm-userguide/

 このシステムでは、E-Research@Harvardのサイトで提供されているオンライン資料、契約しているもの、フリーのものすべてについて、その購入・契約・提供についての情報を管理しています。学内各図書館のライブラリアンは、個々のオンライン資料について、利用条件、契約状態、利用期限や更新期限、トライアル・統計・SFX対応などについての情報、複数館による契約についての分担金・払戻金などの情報を閲覧することができます。これにより、例えば契約や手続きの進捗状況を追跡していったり、更新期限の迫ったデータベースについて注意を払ったり、更新する価値のあるものかどうかを継続して評価していったり、利用者に対して利用条件を案内したり、といったことが容易になります。webブラウザによって検索・閲覧が可能であることも、大きな利点であると言えるでしょう。
 また、ここに登録された各オンライン資料の書誌データ、URLなどに基づいて、E-Research@Harvardサイトその他からのリンクや、解説の表示などが、ユーザに提供されることになります。

 ハーバード大学におけるデータベースや電子ジャーナルなどのオンライン資料の契約について、かつてまだそれほど数の多くなかった頃には、専任のライブラリアン1名(および兼任のサポート3名)がすべてを引き受けていました。しかし、業務負荷が過剰に集中しすぎてしまい、その体制を継続することが困難になったといいます。また、契約データベースの支払いについても、各部局から分担金を徴収してプール金として確保するという、日本やアメリカでも多くの大学でとられている方法でした。が、ハーバード大学のような大規模大学では、分担の決定や交渉などのプロセスが複雑になってしまうこと、部局によって金銭事情(使用できる基金の出所・有無・規模、その基金の制限事項など)があまりにも違いすぎること、基金の送金にルール上の制約があったこと、価格の毎年の値上がりが激しすぎて学内合意を得るのが間に合わなくなってきたこと、などから、その方法には限界があったようです。
 現在では、各図書館や図書館群で必要と思われるオンライン資料の契約は、それぞれで手配をするということになっています。複数館での分担が適当であると判断された場合には、利用統計などによって、お互いに交渉・議論が行なわれることもあり、その分担金のやりとりは当事者同士で行なわれます。
 その契約する図書館のライブラリアンが、契約や利用に関する情報を所定のフォームに記入し、ERM担当の部署に提出することによって、ERMにその基礎データが登録されます。このフォームにはそのデータベースの解説文・利用条件・分野などが記述されています。契約が成立し利用可能になれば、そのオンライン資料はE-Research@Harvardで提供されることになります。必要に応じて、横断検索に加えたり、「FIND IT」ボタンからのリンクに対応させたり、HOLLISに書誌レコードやリンク先データを登録したり、といったようなことが処理されますが、どの分野の横断検索に加えるか、利用条件別の取扱い、解説情報の表示なども、ERMに登録されたデータに基づいて行なわれることになります。
 ERMには、有料契約のオンライン資料だけでなく、インターネット上にフリーで公開されているオンライン資料についてもそのデータが登録されます。各館のライブラリアンが掲載・案内するべきだと考えるオンライン資料があれば、所定のフォームを用いてその情報を記述・提出します。審査グループによって評価を得ることができれば、登録された情報に基づいてE-Research@Harvardにて案内が提供されることになります。

 以上のようなワークフローやフォーム、管理・契約にあたって各自が把握しておくべき要領などについては、専用のwebサイトが設けられており、学内ライブラリアン間での情報共有が図られています。

 E-Resource Management & Licensing – Harvard Libraries
 http://isites.harvard.edu/icb/icb.do?keyword=k11228

 また、契約しているオンライン資料を継続的にメンテナンスし、確実な提供を保証していくために、Stewardshipという制度がとられています。これは、各オンライン資料に主たる監督図書館とそのコンタクトパーソンが設定されていて、世話役を担うというものです。利用者や他のライブラリアンからのリクエストやフィードバックはこの世話役である図書館や担当者に伝えられます。またトラブル発生時の報告・案内や、契約業者とのやりとりについても、監督する図書館が執り行うことになります。そして、その監督図書館やコンタクトパーソンがその世話役としての仕事をまっとうできるようなサポートもまた、上記の専用webサイトにて行なわれています。

 オンライン資料の契約・管理については、どの大学図書館でもその業務負荷がある特定の部署や担当者に集中してしまいがちです。このように集中を避けつつ、かつ情報の一括管理と共有が可能となる体制は、ひとつの参考になるのではないか、と思います。

 なお、このERMシステムは学内で独自に開発されたものですが、現在は業務用図書館システムと連携した新たなシステムの試用を始めているとのことです。

35. オンライン資料の検索を強力にサポート — E-Research@Harvard

 電子ジャーナルやデータベースなどのオンライン資料を、いかに効率よく、判りやすく、スムーズに提供するかについては、どの大学図書館も常に頭を悩ませている問題だと思います。
 ハーバード大学では、学内で契約・提供されているあらゆるすべてのオンライン資料について、「E-Research@Harvard」という下記のポータルサイトから探し出し、たどり着くことができるようになっています。

 E-Research@Harvard
 http://eresearch.lib.harvard.edu/

●Cross Search

 このポータルサイトで提供されているサービス・機能のうち、もっとも強力な機能のうちのひとつが、データベースの横断検索です。
 ハーバードでは非常に多くのデータベース – 文献検索データベース、統計データベース、分野別データベースなどを契約しています。E-Research@Harvardでは、MetaLibと呼ばれるシステムを使って、それら複数のデータベースを一度に横断検索することができます。
 ユーザはまず、下記画面の左側にリストアップされている分野別・種類別のカテゴリから、自分の目的に適うものを選びます。すると、その分野・種類に即した複数のデータベースが、画面中央に提示されます。

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 写真は「Music」を選択して、7件のデータベースが提示された例です。この中で、自分が検索したいデータベースをチェックボックスで選び、キーワードを入力して検索してみます。

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 ”shamisen”で検索した結果が表示されました。
 右端に表示されている「Topics」「Authors」などの見出しのついたリンクは「ファセット」と呼ばれる機能で、これをクリックすることでしぼりこみ検索が可能です。検索結果の内容が自動的に分析され、その中に含まれているキーワード(kabuki, theater, tsugaruなど)や著者名などのうち、数の多いものが選ばれて、このようにリストアップされています。このリンクをクリックすれば、そのキーワードや著者名でしぼりこみ検索をした結果がすぐに表示される、という仕組みです。
 「FIND IT」という青いボタンをクリックすると、その論文の全文ファイルへのリンクや、図書・雑誌の所蔵場所を示す書誌・所蔵データへのリンクが示され、現物を入手することができます。これは「SFX」というシステムを使ったサービスで、京都大学の「Article Linker」とほぼ同じ機能です。
 「○」に「+」のマークがついているボタンをクリックすると、選んだ論文のタイトル・著者・雑誌名などのデータが、各ユーザ個人のバスケットに保存されます。保存したデータは「My Research」と書かれたリンクをクリックすることでいつでも参照できます。RefWorks(文献情報管理ソフト)へのエクスポートも可能です。

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 この機能は、ユーザ各自がログインしているときに利用可能なものです。
 E-Research@Harvardのトップページやその他の検索画面のページなどには、随所にログインのためのリンクが設けられています。これは【29. どこでもハーバード – WebサービスとPIN System】でご紹介したPIN Systemへのリンクであり、ユーザはここで自分の身分証番号とパスワードを入力することにより、ハーバード契約資料へのアクセスが認められるメンバーとして、認証を受けることになります。
 下記は、ログインしていなかったときの、横断検索画面の例です。

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 ハーバードの学内者でなければ使用できない契約データベースには、使用できないという意味の「○」に「/」のマークが表示されています。逆に、フリーで公開されているデータベース(AGRICOLA)やハーバード自身が作成して一般公開している目録データベース(Harvard Geospatial Library)にはチェックボックスがついています。フリーで利用できるデータベースについては、ハーバードの学内者でなくてもこの横断検索機能を利用できます。

●E-Resource

 ハーバードの図書館が契約あるいは提供しているオンライン資料、データベース、コレクションなどについて、キーワードやタイトルなどから探すことができるのが、「E-Resource」サービスです。キーワードなどによる検索で探すほか、リストアップされた分野名からたどり着くこともできます。

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 右側の「○」に「i」のマークをクリックすると、そのデータベースについての解説・利用条件・分野などの情報が表示されます。

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 また、ここでは契約・有料もののデータベースだけでなく、ハーバードで作成・公開している無料のデータベース、インターネット上でフリーで利用できるデータベース、他大学が作成した分野別リンク集や、ハーバード図書館のwebサイトや各館が作成した利用ガイド・分野別ガイドなど、じつにさまざまな種類のオンライン資料が含まれています。学内の各分野の専門家であるライブラリアンが、ここに掲載してユーザにおすすめできると考えたオンライン資料については、その出自や有料無料に関わらず、提供されています。上記リストのうち、「○」に「/」のマークがついていないものが、フリーで利用できるオンライン資料にあたります。

●LibX

 E-Research@Harvardで提供されているサービスとは別のものですが、「LibX」についてご紹介します。
 LibXはユーザ各自が自分のwebブラウザに組み込んで使うツールです。ヴァージニア工科大学で開発されたもので、各大学の図書館サービスシステムに合わせてカスタマイズしたものが提供されます。ハーバードの図書館webサイトからも、ハーバード大学のユーザ向けにカスタマイズしたものが配布されています。
 このツールをwebブラウザに組み込むと、さまざまな図書館サービス・情報検索に関する便利な機能を利用することができるようになります。
 例えば、ブラウザにインストールされたツールバーから、直接HOLLIS(ハーバードの蔵書検索)や電子ジャーナル用データベース、Google Scholarなどを検索しに行くことができます。

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 ほぼ同じ機能が、webページのテキスト選択後の右クリックメニューからも可能です。

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 また、Amazonの検索結果画面などにハーバードのマークが表示されるようになり、それをクリックすると、同じ本がハーバードの図書館に所蔵されているかどうかをHOLLISで確認できます。さらには、閲覧中のwebページの中にISSNやISBNが書かれてあれば、自動的にそれを認識し、HOLLISを検索するためのリンクを付与してくれます。

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