16. 毎日がオリエンテーション — GSASオリエンテーション

 新年度に入ってから行なわれている各種図書館オリエンテーションのうち、大学院生向けのGSAS(Graduate School of Arts and Sciences)オリエンテーションについて、少し詳しくご報告します。
 これは図書館のみ個別のものではなく、住居や保険に関する部署などと合同で行なわれる全体的なオリエンテーションです。各部署がテーブルに陣取って、訪れた学生の質問やリクエストに応える。学生は学生で、自分の必要な情報をそれぞれの部署に自ら出向いて情報を入手する、といった具合です。部署によってはグッズやチョコレート・キャンディを配ったり、ルーレットや抽選でiPodなどの景品が当たりますよと宣伝するなど、オリエンテーションというよりもフェスティバルといった雰囲気で、たいへんな混雑でした。

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 この建物の中の1室を使って、HCL(Harvard College Libraries)による院生向けの図書館オリエンテーションが行なわれました。午後の間に2回・1時間づつ、1回の参加者は80人ほどで、部屋の広さ・座席数もほぼ同程度でした。
 まずHCLの中心であるWidner図書館のライブラリアンにより、学内図書館サービスの概要、HOLLIS(ハーバード大学の蔵書検索データベース)などの検索方法といった、概括的なガイダンスが行なわれます。続いて、Scienceの図書館、Geospatialの図書館というように、各部局図書館からのライブラリアンがそれぞれ説明を行ないます。その内容も、ある人は所蔵する古典籍資料のデジタル画像紹介、ある人は情報収集の心得といったように、多岐にわたる総花的なものでした。
 その後、その場に列席していた学内各部局図書館からのライブラリアン、およそ30人ほどが、ひとりづつ簡単な自己紹介を行ないます。ある人は自分の専門分野を述べたり、ある人は今日こんなハンドアウトを持参して来ています、というようなことをアピールしていました。
 以上、40分強ほどでガイダンスは終了し、解散となりました。

 ここまでですと、日本の大学図書館で見られる光景とそれほど変わらないのですが、印象的な場面を目撃したのはこのあとでした。
 7〜8割ほどの学生はざわざわと退室するのですが、何人かの学生は個々に、或いは固まって、先ほど自己紹介をしたライブラリアンのもとに向かっていくのです。私の近くにいたイェンチン図書館のe-resource担当レファレンス・ライブラリアンのところにも何人かの学生が近寄ってくるので、様子をうかがっていると、「私は○○で、○○についての勉強をするつもりで、○○を探していて・・・・・・」というような相談を持ちかけています。話しかけられたライブラリアンもそれに応えて、「それには○○というデータベースがあって、それについてはこのハンドアウトに詳しく書いてあって・・・・・・」といった説明をして、名刺や自作資料を手渡したり、レファレンスデスクには何曜日の何時に出ているというようなことを伝えたりしていました。

 このように、オリエンテーションやレファレンスが単なる連絡事項や一過性の1問1答に終わるのではなく、学生・研究者とライブラリアンとによるコミュニケーションまたは人間関係形成の一環としてやりとりされている様子を、こちらに来てからたびたび目にしています。
 ある図書館での館内ツアーに同行したときも、案内役のライブラリアンが参加した学生に「あなたの研究テーマは?」「クラスではどんなことをやっている?」などとしきりにインタビューしては、それに応じた蔵書紹介を行なっていました。もちろんライブラリアン自身が、自分の専門分野、オフィスの場所、レファレンスデスクにいる曜日と時間を示して、どうぞ相談に来てくださいとアピールするのは当然のことのようです。また利用者側も、「自分の研究テーマは○○で、時代はいつ頃です」「前の大学では○○をやっていました」「来年のいつまでに論文を提出する予定です」といったような自分のプロフィールを、ライブラリアンに対して積極的に述べている様子も、何度か目撃しました。
 利用者にとってもライブラリアンにとっても、自分にとって有益な/自分が役に立てる相手を見つけては、今後も随時相談にのってもらえる/のってあげられるよう、能動的に人間関係を築いていく、というひとつの”マナー”を垣間見たような気がします。
 そういった意味では、図書館のオリエンテーションというのは、事務連絡・情報伝達のための行事でも、教育の一環でも、制度としての図書館サービスでもなく、”コミュニケーションの場”のひとつではないだろうか。そして、自分の専門分野が何か、求めているものが何か、与えられるものが何かを、互いに明確に伝えるというコミュニケーション・スキルが充分にあれば、オリエンテーションのシーズンが過ぎても、どのようなタイミングででも、容易に関係を築けるのではないか。そのようなことを考えました。

 さて、この院生向け図書館オリエンテーションでは、お土産として参加者全員にUSBメモリが配られました。これが何に使われるのかについては、後日またあらためてご報告したいと思います。

15. 新年度がスタート! — 図書館オリエンテーション

 9月に入り、新年度を迎えたハーバード大学はにわかに活気づいてきました。

 新しくハーバードにやってきた学生・研究者のみなさんを対象に、学内のあちらこちらの図書館でオリエンテーションが開催されています。対象も内容もさまざまですが、できるだけ傍聴してきました。

※Widener図書館ツアー (毎日午後)
 通常は毎週木曜日午後3時からのみの館内ツアーを、この時期に限り、毎日行なうというもの。図書館の歴史、館内の設備、書庫の構成など。日によって10人以上の参加者があることもあれば、誰も来なくて流れることもある。

※GSASオリエンテーション (9/12午後)
 HCL(Harvard College Libraries)による院生向けのオリエンテーション。(GSASはGraduate School of Arts and Sciencesの略。) 図書館以外の全種のオリエンテーションと同じ建物内で行なわれる。ガイダンスが2回、1時間づつ。1回の参加者は80人ほど。

※Lamontフレッシュマン・オープンハウス (9/13午後)
 Lamont図書館(学部生用学習図書館)による、学部新入生向けのイベント。館内の簡単なツアーのほか、各種資料の配布と説明が行なわれる。館内は風船で飾られ、スタッフは皆”You@Lamont”と書かれたおそろいのTシャツを着て、参加者にはスナックやドリンク、USBメモリがあたるチケットを配るなど、お祭り色が強い。ただ、学生の姿があまり見られず、なんとなく閑散とした印象を受ける。配布資料は、HOLLISの使い方、図書館のディープな使い方、本をCriticalに読むための方法など。

※イェンチン図書館のオリエンテーション (9/12午後)
 学内各所から、東アジア研究を行なっている研究者・学生約100人が参加。全館の概説と、日・中・韓・ヴェトナムそれぞれに分かれての館内ツアー。

※イェンチン図書館のオリエンテーション詳細版 (9/13・9/14)
 上記のオリエンテーションではカバーできなかった実用的な情報について、具体的に説明するもの。学内コンピュータ環境の概説、HOLLISの詳細な利用方法(CJK文字やローマ字の説明含む)、e-research Portalでの各種データベースやRefworksの利用法など。1回につき約1時間で、20人ほどが参加。今年初の試みとして行なわれた。

 次回はこの中から「GSASオリエンテーション」について少し詳しくご報告します。

14. 資料のWeb公開に伴う責務 — Image Use Protocol Task Force

 8月29日、NCC(North American Coordinating Council on Japanese Library Resources:北米日本研究資料調整協議会)内のタスクフォースのひとつである、Image Use Protocol Task Forceのミーティングが行なわれ、傍聴させていただくことができました。
 古典籍資料や古文書、美術・博物資料といったものの写真を、論文内で引用するなどして出版物に掲載する場合、所蔵機関の許諾を得るなどの手続きが必要となります。日本では出版社や編集社が行なうことが多いようですが、アメリカでは多くの場合、執筆者である教員・研究者自身がその手続きを取ることを求められるそうです。誰に対してどのような手続きをとればいいか判らず戸惑った日本研究の教員・研究者が、日本分野のライブラリアンに相談に来ることが多いため、どのような対応をとればよいかの情報交換、調査、書類ひな型やガイドラインの作成などを行なおう、というのが、このタスクフォースの目的であるようです。

 NCC Image Use Protocol Task Force
 http://www.fas.harvard.edu/~ncc/imageuse.html

 ほぼ1日をかけて行なわれたミーティングのうち、1時間半ほどしか傍聴する機会がなかったのですが、それでもその短い間に、

 ・申請方法や書式がまちまちで、判りにくい。
 ・申請方法やポリシーが明示されておらず、電話で問い合わせなければならない場合が多い。
 ・有料の場合、クレジットカード払いができない場合が多い。支払いに手間がかかる上に、手数料が高額になってしまうことがある。
 ・日本とアメリカで著作権法が異なる。例えば、アメリカでは著作権が切れるのは著作権者の死後70年、日本では50年のため、日本では手続きが不要とされている資料なのに、アメリカではそれを出版できない、というケースがある。
 ・プランゲ文庫(メリーランド大学)がWebで公開している書類が参考になる。

 といった様々な話題があがりました。その対象は図書館・美術館のような組織ばかりではなく、寺社や個人コレクションのようなところにも及ぶため、個々で異なる対応を求められる煩雑さ、判りにくさはかなり大きいようです。
 私自身、数年前に京都大学電子図書館の貴重資料画像(学内の古典籍資料のイメージファイルをWebで公開したもの)を管理・運営する業務を担当しており、国内外から多数の”画像使用許可願い”を受け付け処理するという立場にありました。海外からこういった申請を行なうにあたっていろいろご不便をおかけしたのではないか、と恐縮しながら話を聞いていましたが、出席者のお一人から、「京都大学の貴重資料画像に対して利用申請をしたときは、手続き方法がわかりやすく、対応も迅速で助かった」とのコメントをいただき、安堵しました。
 図書館がWebで所蔵資料やその画像を公開するとき、単に公開して自由に見てもらうだけで終わり、ということには決してなりません。必ず、原資料の閲覧、複写物の依頼、二次使用の許諾申請といった様々なリクエストを伴うことになりますし、しかもそれは公開直後から相当の期間継続していきます。古典籍や文書類などの画像ファイルに限らず、論文・報告書など機関リポジトリの類に納められた文書ファイルであっても、同様のことが言えます。
 様々な資料のWeb公開のおかげで、探しやすく、アクセスしやすくなった分だけ余計に、そういったリクエストにどれだけ迅速に対応できるか、ポリシーを明確かつ透明に提示できるか、といったことがより一層求められるようになるのではないでしょうか。

 メリーランド大学プランゲ文庫 複写サービス
 http://www.lib.umd.edu/prange/html/reproduction.jsp

 京都大学電子図書館に関わる著作権・リンク・二次利用について
 http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/copyright.html

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