米山俊直『祇園祭 : 都市人類学ことはじめ』(#egamidayの貸棚書店)

 米山俊直. 『祇園祭 : 都市人類学ことはじめ』(中公新書363). 中央公論社, 1974.

 祇園祭が始まってます。関連書籍をどれか1冊推すとしたら、まちがいなくこれです。

 祇園祭はいろいろに語られると思います、歴史的な側面だけでなく、宗教儀式として、観光経済、芸術品や文化財云々あると思いますが、極私的にもっとも魅力を感じているのが主にこの本に書いてあるような視点から、です。
 町や建物がどう変わってるかとか。人の会話がどうや、露店はどうやとか。何日の何時に誰がどこでどうしたとか。町衆は、よそ者は、観光は、企業は、報道は、とか。神事にしたってトラックがどうアーケードがどう修理がどうとか。
 祇園祭という、言ってみれば実態の無いでっかい概念のようなものをめぐって、人が動き、コミュニティが動き、都市が社会が動くっていうの、なんかもう壮大なアドリブ劇場かなんかかなって思います。
 それだけでなく、本書に描かれているのはいまからちょうど50年前の祇園祭であり、京都の人々の営みである、というあたりもまた良いです。その頃といまと、何が同じで、何が違うのか。さらにいえば、大学の文化人類学・フィールドワーク授業の様子を描いたものでもあり、それはいまと比べてどうなのか。50年前の若者は、50年前の年輩者からどう見えていたのか。そういう人々の日常感、祇園祭だから非日常のはずですが、観察と描き方がライブ感たっぷりなのでむしろ日常感を感じてしまうという、そういう「50年前に書かれたブログ」を読んでるかのような文章もまた、本書の魅力だと思います。
 これ読んだら、そりゃ、祇園祭おもろい!と思いますよ、「今の京都を生きている祭り」ですから。少なくともこれを読んだ90年代の私は、20年代にも変わらずそう思ってます。

参照:
祇園祭 : 都市人類学ことはじめ | CiNii Research
https://cir.nii.ac.jp/crid/1130000797219035776

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和田敦彦『「大東亜」の読書編成 : 思想戦と日本語書物の流通』(#egamidayの貸棚書店)

 和田敦彦. 『「大東亜」の読書編成 : 思想戦と日本語書物の流通』. ひつじ書房, 2022.
 https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1129-8.htm

 “読書”の顔をしてやってくる者が、実際は何者なのか。

 本というメディアの魅力は、国境や時代をこえてひろがり、その言葉が読者に届く、というところにあります。ただ、その作用はプラスなだけということもないわけです。
 太平洋戦争・「大東亜」の頃に、日本国民への文化統制と、国外への喧伝・文化工作がどのようにおこなわれていったのか。それを、”読書””蔵書”そして”文学”から読み解こうとするのが本書です。著者は、同じく蔵書の構成や流通から北米における日本のひろがりを『書物の日米関係』で描いた、早稲田大学の和田敦彦さんで、今回はその焦点を大東亜の頃の日本と東南アジアに移しています。
 たとえば当時創刊された「東亜文化圏」という雑誌が、東南アジアへ文化工作を実践しようとしとしたその企図、経緯、そして結論のようなもの。あるいはベトナムとインドネシアにのこされた日本語の蔵書と、その構成の差から垣間見える目論見の違い。そして講談は何を喧伝するのか、南京大虐殺事件を描いた小説はなぜ届かなかったのか、等。9章の様々なトピックがかわるがわる提示されて、全体で壮大な大河のようになってるので、テンポ良く読めるうえに読み応えがある、という感じです。

参照:
《書評》和田敦彦著『「大東亜」の読書編成:思想戦と日本語書物の流通』 https://www.jstage.jst.go.jp/article/toshokankai/74/5/74_285/_article/-char/ja/

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中野守『楽屋ちゃん2017』(#egamidayの貸棚書店)

 中野守. 『楽屋ちゃん2017 : 戯曲』. 中野劇団, [2017].

 関西の好きな劇団のひとつ・中野劇団については、少なくとも私は中野劇団の舞台を観て笑わなかった記憶がないので、ぜひおすすめです。その中から、なぜか2冊持ってた戯曲本「楽屋ちゃん2017」を1冊出してます。
 世に、どう面白いかを説明しようとするとネタバレになってしまうので説明できない、というパターンのコンテンツってあると思うんですが、これもたぶんそうで、ざっくり言えば、ある舞台が現在進行しているところの楽屋の様子を描いている、楽屋ですから”裏”なわけで、舞台の裏ではこんなこと言ったりやったりしてるんだねえ、…と、思いきや。という感じのやつです。構造のおもろいやつです、それ言っちゃうのもちょっとあれなんだけど。
 という曰く言い難いのを、ぜひ読んでいただいたあとには、DVDなり配信なりでもまた観てください。

参照:
中野劇団
http://nakanogekidan.com/
https://store.kan-geki.com/products/detail.php?product_id=2052 (DVD)
https://kan-geki.com/streaming/play/1287 (配信)

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