今日の本読みメモ:『共振するデジタル人文学とデジタルアーカイブ』

 鈴木親彦編. 『共振するデジタル人文学とデジタルアーカイブ』. 勉誠出版, 2023.
 https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101402

 うちら業界の人、これ絶対読んで、頼む。
 時間無い・しんどいいう方は、西岡「大学図書館におけるDHとデジタルアーカイブ」章と大向「大学がつなぐDAとDH、大学をつなぐDAとDH」章の2つだけミニマムでも良いので。

○赤間「デジタルヒューマニティーズとデジタルアーカイブ」
・立命館大学文学部「デジタル人文学クロスメジャー」(選考横断型コース、学部生)。学部生が自身の専攻で展開したいテーマに対して、本属の専攻では提供していないデジタル技術や研究方法を学ぶ。
・データベースにおける蓄積・編集という機能が、DHの研究プロセスには重要。個人の研究活動から生み出される情報のアーカイブが可能なデータベースシステムが必要。ARCのDBは蓄積編集機能を提供している。
・従来の人文学をDHへ移行させるため、オンライン上のデジタルツイン的な研究空間・プラットフォーム(=リサーチスペース)が必要。ARCは知的生産のためのエコシステム型DH環境として「ARCリサーチスペース」を提供している。

○永﨑「デジタルアーカイブ社会実現に向けたレイヤー構造の必要性と人文学の役割」
・方法論の共有地(Methodological Commons)。人文学は分野ごとに独自の方法論を持つが、DHで適用されるデジタル技術はおおむね共通しており共有・相互対話が可能。
→<e>図書館とDHの接点はここにあるのでは。「情報リテラシー教育」とやらでさんざん「うちらの領域だ」って言ってやってきたし。

○山本「人文学の大規模な研究基盤構築:新日本古典籍総合データベース」
・人文学社会科学の新興を考えるうえでの3つの視点
-諸学の密接な連携と総合性
-学術への要請と社会的貢献
-グローバル化と国際学術空間
(「リスク社会の克服と知的社会の成熟に向けた人文学及び社会科学の振興について(報告)」(文部科学省科学技術・学術審議会学術分科会))
・人文学社会学の諸学が分野を越えて共有できる本質的根源的な問いに対する探究を進化させていくアプローチが求められる。(「人文学・社会科学が先導する未来社会の共創に向けて」(文部科学省科学技術・学術審議会学術分科会))

○西岡「大学図書館におけるDHとデジタルアーカイブ」
・デジタルアーカイブは大学図書館にとってのDHの基盤
・欧米の大学図書館は、支援者からパートナーへ、緊密な連携に取り組んでいる。
・図書館・人文学への批判→インパクトの提示、そのためのDADH(?)
・図書館は単なるリソースプロバイダではなく、資料知識・研究連携、という付加価値・差別化
・図書館とDHのwinwin。図書館がDH研究プロジェクトの初期段階から連携参加することで、持続可能性(<e>それ以外にも、何かある?)に貢献できる。

○山田「史料をデータとして考える」
・「科学技術・イノベーション基本法」(2021)で、「人文科学を含む科学技術とイノベーションの創出」
・「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(2021)で、「自然科学のみならず人文・社会科学も含めた多様な「知」の創造」のため、人文・社会系の研究データのプラットフォームを整備するとされた。
・人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築推進事業(日本学術振興会、2018~)、人文社会系の研究データ共有・利活用のシステム構築
・「人文学・社会科学総合データカタログ」(JDCat)

○大沼「デジタルアーカイブはデジタル・ヒューマニティーズに対して何ができるか?:一つの解としてのラボ事業」
・主要なデジタルアーカイブが展開している「ラボ」を冠した事業
・(ヨーロピアナやジャパンサーチで)集約されたコンテンツは、次に、どのように使われるのか。いかにして研究利活用や新たなサービスにつなげられるか。
・DHは共同研究が多く、多様な専門家の共同によって開発がおこなわれるラボ事業は、それ自体がDH的な活動。

○小風尚樹「デジタルアーカイブの活用に向けたコミュニティ形成:Tokyo Digital Historyを事例に」
・DHの学際性等から、DHをやる学生と指導教員との知見や専門分野が合致しない問題。
・DH教育課程がない問題。
・デジタルヒストリーを学べる院生主体の勉強会、としてのTokyo Digital History。
・若手研究者のDA・DHツール活用がまだ表面的で踏み込みが足りない。そこにキャリアのある年輩の研究者も必要。

○小風綾乃「多量のデータ作成と計量分析を実践する歴史学研究者から見るDA・DHの希望と展望」
・画像や翻刻データ等が、ここの研究者のPC等に死蔵されることの無いような環境整備を。
・「方法論の共有地」として、ツールやその学びの場が共有されたい。

○大向「大学がつなぐDAとDH、大学をつなぐDAとDH」
・DAとDHの分業体制(大学内における)
・大学への社会からの要請(変化)は、DA・DHにとっては追い風である。
・学問のDXが必要→DAとDHの分業は解くべき。(<e>分業は”分断”ではない)
・そのために、DADHを軸とした大学教育カリキュラムが必要。
・東京大学では、大学院生を対象としたDHの修了証プログラムがある。
・部局(研究者)DAを共通施設(図書館)DAがフォローする。(→社会還元、共同研究につながる)

事務連絡 : egamiday3+ 開始のお知らせ

 「egamiday3+」の運用を開始しました。

 「egamiday3+」は、15年(!)続いてきた「egamiday3」のそのまた続きであり、それはおそらく「egamiday」「egamiday2」「egamiday2+」「HVUday」あたりからの流れのようなものです。
 特にやることは変わらないと思いますが、なんとなくシステム的・デザイン的に、次の15年(!?)を見据えた持続可能なものにできればいいかなと思って、という感じです。

 でもやっぱ、特に変わんないです。

縄文ZINE編『土偶を読むを読む』(#egamidayの貸棚書店)

 縄文ZINE編. 『土偶を読むを読む』. 文学通信, 2023.

 土偶に興味・知見がない人でも読めるし読んでいいし、ていうか私が土偶に興味なかったですけどでも、特に後半は(考古歴史に限らず)学術・科学をこれから学ぼうとする人であれば読んでおくべきところかと思います。
 前半は、『土偶を読む』をひと目ひと目潰すように検証していくパートで、検証というか反論というか、ニセ科学へのダメ出しなので、ある種パズルの解き方編を鑑賞しているようなものです、土偶に関心なくても論理うにゅうにゅを味わうのが好きな方には読み応えあると思います。(その反論が正しいのかどうかは、私では即断できませんので置いておきます)
 それをふまえたうえでの後半は、縄文・土偶研究のまとめがされる層と、専門知・学術(「科学」とあまり言われてないけど、科学でいいのではと思う)のあり方が論ぜられる層とが、折り重なっている感じのパート。おおむね専門知・学術の層のほうを中心に拝読しましたけど、何が問題だったか、どうするべきか/べきだったかというのが、わかりやすく書かれてるんですね。たぶん、『土偶を読む』を読んでた人に読まれることを意識してそこ向けに、ということでそうなったのかもしれないんですが、だとすると不幸中の幸いというか、”専門知”とは何かという議論に入門的に触れられる効用のある、という意味で結構得難い本になってるんじゃないかと思います。学部生さんに吉。
 専門知と科学の違い、的なところがもうちょっとあればよかったかな、というのと、あと、揶揄表現無しに淡々冷然と否定していくほうが効果あるのでは、って思っちゃうのは京都的なあれですかね。
 それにしても、ニセ科学にしろ歴史修正にしろ、一度出ちゃったものをちゃんと否定することの大事さと、重労働さへの絶望感と、で、なんでそういうのに限って人気出ちゃうの問題(永遠の)あたりは繰り返されてきたことながら、じゃあせめて外野が燃料注がないでほしい、しかも背中から、というのが今回のさらなる問題だったみたいですね。図鑑が「全国学校図書館協議会選定図書」となってるあたりこっち側の火事でもあります。

 一回読んだくらいなので、新品に近いです。

#egamidayの貸棚書店
烏丸丸太町近くの #こもれび書店 にて
https://komorebibook.theshop.jp/

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