202403us シアトル日記その1 : CEAL・NCC・AAS編
■CEAL・NCC・AAS編
説明しよう、CEAL・NCC・AASとは。
毎年3月に北米で開催されるアジア学会(AAS)の年次大会があって、その年次大会とタイミングを同じくして(だいたい1-2日早めに)同じ会場で、東アジア図書館協会(CEAL)の年次大会が開催されます。AASが研究者中心の学会で、CEALがライブラリアンの集会。なお、CEAL内に日本資料分科会(CJM)がありつつ、ほぼ同じメンツのコミュニティとして北米日本研究資料調整協議会(NCC)がもうひとつあります。
いずれにしても、北米における日本資料専門家のネットワーク形成の場として重要な会議でありますから、うちとこからも毎年誰かしら参加するようにしており、2024年3月はシアトル(Sheraton Grand Seattle, Seattle Convention Center)で開催されたので行ってきました、というメモです。
●CEAL
●Keynote Speeches および Discussion (3/13)
・今年の基調講演テーマは「Artificial Intelligence (AI): Impacts on the East Asian Library」。ていうかその後の他の分科会もほぼほぼずっと「AI」、わかるけど、そこまでずっとはどうかと思うけど、わかるけど。
・いずれにしろ、今後この業界でのディスカッションには必ず顔を出すだろうからベースとしての知識理解は持ってないとやっていけなさそうだし、持ってなさいね、というテーマ企画なんでしょう。
・そういう意味での、マイクロソフトの人によるAI概説(https://www.eastasianlib.org/newsite/wp-content/uploads/2024/03/We-Learn-From-AI_Alice-Zhao.pdf)。
・概説を聞いてて、ふわっと、なるほど料理とAIは相性良さそうだな、という感想。いくらでも試行錯誤ができて、素材にはことかかなくて、時間や金銭のコストが低くて、組み合わせと発想が無限にあって、正解らしき正解があるわけでなく、しかもどんな人でも共通してある程度の興味を持てる、という。そして、そういう意味で、図書館や学術情報とAIとの相性というのはそもそもどうなんだ(相性の有無をそもそも議論せず適応して当たり前のような姿勢は早急すぎるのではないのか、の意として)、ということは念頭に置いておきたい。
・学術情報や東アジア研究との関わりとして、生成AIのメリットデメリット、中国研究・漢詩へのAI適用、図書館情報学が貢献できる役割、セキュリティやセンサーシップやバイアスや旧レーションといったもろもろの問題。(https://www.eastasianlib.org/newsite/wp-content/uploads/2024/03/20240315_CEALPresentation_Tang.pdf 等)
・そして、書誌情報の整理整形にAIではという説がとなえられるも、ただ、日本人名のヨミはちょっと難しかったんだけどね、とエクスキューズが入る。これが実は、2日目への壮大なネタふりであった(続く)。
・ディスカッション(https://www.eastasianlib.org/newsite/wp-content/uploads/2024/03/2024-CEAL-Annual-Meeting-II.pdf)のパートで興味深かったのは、ライブラリアンと生成AIのそれぞれの強み領域があるとして、それが重なり合うのはどの部分か、という話。「enhanced discoverability」「informed decisions」「personalized services」の3つ。
●Poster Session
・同志社の学生さんたちががんばってはりました。
●Committee on Technical Processing (CTP) Session
・テーマは「AI Tools and applications to metadata enhancements and manipulation」
・「AI and Romanization: Possibilities and Limitations」(https://www.eastasianlib.org/newsite/wp-content/uploads/2024/03/LEESON-CTP-Publication-revised.pdf)
韓国研究ライブラリアンによるAIを使ったローマナイズについて。データの質・量・多様性や、分析ではなく解釈の問題等。ここで我々は、万能かに見えた生成AIの前に無慈悲に立ちはだかる「日本人名のヨミの無理ゲーさ」を思い知らされることとなった。はっきり「解決方法は見つかっていない」て言うてはったし。
・「AI Tools Applied to Metadata Enhancement and Manipulation」、同志社・原田先生。こちらはレジュメを是非。肝は、データの質とチューニング。
http://www.slis.doshisha.ac.jp/~ushi/CEAL/ceal2024.pdf
https://www.slis.doshisha.ac.jp/~ushi/CEAL/ceal2024script.pdf
●Committee on Japanese Materials (CJM) Session
・具体的な内容については↓こちら。
https://www.eastasianlib.org/newsite/meetings/#cjm-program
・話の内容自体は、日本から来た身にとってはすでに見聞きしているものがベースではあったわけですが、他のセッションの中韓の発表者が、AIは、AIが、AIとは、を繰り返し唱える中にあって、日本からの活動事例2篇についてはどちらかというと、自分たちのこのプロジェクトはこういう大すがたをしていて、その中にあってAIはこんな感じです、という話だったようで、だからでしょうか、聞いてる方の中には「ん?」と虚を突かれた感の方もどうやらいたようにうかがったのですが、いやあたしはむしろ、こっちこそがリアルなAI噺なんじゃないですかね的な、口幅ったく言えば、AIってそういうことでしょう的な。そういうセッションとして(そういう意図だったかはともかく)非常に良かったのではないかと思いました。(だからこそ、来てない北米日本司書のためにもストリーミングとかすると良いのではと思うのだけど。)
・あと、ここで「国際コラボが云々」という発言をするために、私はシアトルにやってきました。
●North American Coordinating Council on Japanese Library Resources (NCC)
・国立国会図書館の送信サービスと、デジタルコレクションの全文テキストについてが、日本からの主要な情報提供。
・加えて、NCCの今後をどうするかをこれからディスカッションしていきましょう、という活動的な話、これは今後注目したいです。(だからこそ、来てない北米日本司書のためにもストリーミングとかすると良いのではと思うのだけど。)
●AASのあれこれ
・AASのセッションもやはりAIへAIへと草木もなびく感じだけど、少なくとも自分が拝聴した範囲のテーマは、もっと時間をかけてこなれさせていくんだろうな、という感じ。
・一方でたとえば「Navigating the Digital and the Material in Japanese Studies Research and Pedagogy」は、デジタルアーカイブとデジタルヒューマニティーズを教育その他の現場で具体的に活用実践するというような話なんだけど、「なぜマッピングするの?なぜデジタル化するの?」とか、「研究資源を教育資源に転用するのは、bumpy roadだ」みたいにあらためて言われると、それが難題だとわかってるけど(orがゆえに)、やっぱちょっとホッとする、なびいてるだけじゃないんだなと。
・Digital Humanities JapanのMeetings-in-Conjunction。コロナ禍中からオンラインなりその後の対面なりで、シリーズ的におこなわれてたの。3人くらいの実践報告がおこなわれ、わりと短時間でサクッと終わったんだけど、その感じがかえって良かったなと。カジュアルで軽くてゆるくて、でも同じことを同じように、繰り返し継続していることが持つ、イベントの機能性みたいなことを学びました。
・企業展示を見ていると、日本からの出展として「紀伊國屋さんグループ」の島と「日本出版貿易さんグループ」の島とがあって、書店さん出版社さんその他がその中で店子となって出展しておられる、なるほどそんなやり方をしてたのかと思いながら見てたら、その店子に「国立歴史民族博物館」という何やら見慣れたというか親近感の高い(?)ブースがあり、なるほどその手があったかと、広報およびコミュニケーションの拠点としてEAJRSなみのブース出展も考えられるんだけども、とはいえ、EAJRSとちがってAASは”図書館イベント”ではないので、やるとしたら総合的な情報発信や研究活動の協力といったことが必要となってくるだろう、という見積りをしてました。
・後から来た人用のイベントとしての、謎の一人芝居、どこかの国の山奥から日本の東京のど真ん中に急にやってきた、という話。
●日文研レセプション
・AAS参加者に、日文研を知ってもらうための、夜の催し。
・日文研は、飲み物と軽食を用意してソーシャルネットワーキングをしてもらう、そこに若干の日文研紹介タイムがある、というスタイルの催し。一方で、国文研さんも同日同様の枠があったのだけど、あちらは「紙料を分析すると…」的な研究紹介をがっつりとやってはったので、あれはあれで効果がある気がする。そうでなくても、たとえば飲みニケーションの場に院生の研究壁ポスターが貼ってあって、来場者と院生がもうちょっとインフォーマルにコミュニケーションする、ということをやってもいいんだし、コミュニケーションデザインはいろいろできるんじゃないだろうか、という感想。
・もろもろの事前打ち合わせの結果、スピーチは極々短くにしましょうということになり、図書館パート担当の自分はさてどうしようと考えあぐねていたところが、司会の先生が名前をまちがえて紹介してくれたので、「名前を訂正する」というツカミを軽くゲットできた。調子に乗って図書館紹介Youtube動画を見せて「私の俳優第一作目です」でまたゲットできた。もう充分なのでは。
■コミュニケーション・フィードバック・意見交換編
●聞いた話や考えたこと
・コンテンツ(広義)を図書館のカタログデータベースで検索可能にしてほしい、という、聞けば至極当然なんだが実は日本で実現できてないという話を、異なる人から複数回うかがったので、これはちゃんと考えたい。
北米等では、WorldCatや図書館OPAC等で、文庫・コレクションレベルの書誌・所蔵、データベース自体の書誌、電子資料コンテンツはもちろんのこと、プログラムや検索ツール類といった諸々がデータとして登録されていて、検索可能となっている。これつまり「図書館目録」から脱却した(本当の意味での)ディスカバリーツールということだろうなのですが、一方で、北米のユーザやライブラリアンが同じものを期待して日本のデータベースを検索しても、もちろん日本ではそのようなデータが登録されていることがほとんどなく、検索ができなくて困っている、とのこと。一方でJapanKnowledge等は電子コンテンツのメタデータをOCLC WorldCatに投入している、ということを考えると、日本でも対策を取らないと、将来的には日本のコンテンツを検索するのにCiNiiよりもOCLC WorldCatで検索する方が便利、ということにもなりかねないんだな、という似たようなことを何度目か聞いたなという話。
結局、まだ我々は図書館を「本があるところ(紙にしろデジタルにしろ)」と思ってる
・国際間でのILL現物貸借において紛失等の事故が多いため、一部の大学図書館が国際間現物貸借を打ち切るかもしれないとの情報があった。こちらとしてもちょっと要注視。
・国立国会図書館デジタルコレクションの図書館送信サービスにおいて、これまで実現していなかった海外機関での複写サービスが、4月より開始されることになった。(参:海外の図書館等向けデジタル化資料送信サービスで印刷(プリントアウト)ができるようになります|国立国会図書館―National Diet Library
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2023/240319_01.html)ただし、新規に申請手続きをおこなわなければならず、そのせいで、いままでだったら過去に認められたまま使えてきたこのサービスについて、海外側機関の法務部により契約が認められなくなるおそれもある、との意見があった。これもまた、引き続き注視しておく必要がある。
●個人的な雑感
・前回2016年のシアトル大会に参加したとき、egamidayさんはblogにこんなことを書いてました。
「CEAL/NCCへの参加は9年ぶり2回目なんだけども、9年前と比較したら、人数的にも勢い的にも韓国系の存在感ががっつりしてた。(これまでは)「いまはまだ韓国語蔵書少ないけどこれから増えていくだろう」みたいな未来予想図的なお話をどこでも聞いたんだけど、いまそれがはっきりと現実になっている様子がありありと見てとれた」(http://egamiday3.seesaa.net/article/436967407.html)
あれから8年経って、なるほど、あのころの未来であったリプレイスメントは完了したんだな、という感想です。人と配置の話を聞いてもそうだし、会場を歩いてて、聞こえてくるのが英語じゃなかったら、中国語か韓国語かが半々、という感じ。単独でではなくてグループでいはるので、それがよくわかります。加えて、同じく8年前に聞いたKorean Foundation的なインターンもちゃんと継続(再度、ちゃんと継続)してるらしく。
・30人規模のレストラン個室会食で、自己紹介タイムが始まったなと思いきや、要領がまったくわかっておらず久しぶりにしどろもどろなプレゼンになってしまった。
要は、1人1人がそれぞれの自館事情(今回のテーマは日本の古典籍資料)について簡潔にトークするというもので、それを順々に30人全員がやるので、もちろん1時間程度はかかってるんだけど、でもこれすごくいいやつじゃないですか、日本の飲み会でもほんとに”人的交流”を云々するんであれば酒の勢いで銘々勝手に放談して終わるんじゃなくて、こういうことをちゃんとやったほうがよっぽどマシだと思たです。しかも、もちろんトーク中次々料理が届いてみんな食べながらなんだけど、ちゃんと話者の話を静かに聞いてるし(聞いたうえでのコメントはちゃんと飛び交う)、要はみんな「会合で人の話を聞き自分でも話す」リテラシーが当たり前にあるということで、これ日本の飲み会でやったら聞きもせず勝手にしゃべり合って終わるにちがいないから、なんだかな、ってなる。(それもあって、懇親会の類はもういいかなと思っている)
●その他もろもろのメモ
・紙すき工房があるアイオワ大学
・電子化2年予約待ちのマノア校
・レセプションに来ている日本関係者が少ない
・公立教育とDiversity・アジア系
・コンテンツをカタログデータベースでサーチャブルに(2回目)
・プランゲの電子化
・学生企画@メリーランド大学やワシントン大学
・元カタロガーという方に、ユニークな日文研書誌に助けられたと感謝される
・AIとカタロギング