シェア型書店の棚主を始めて1年ちょっと経ったので、何がどう売れたかのなんちゃって分析メモ・2024夏
egamidayさんは2023年6月ころから、いわゆる”シェア型書店””貸棚書店”と呼ばれるのの、棚主というのをやってみ始めました。
おすすめしたい本や読み終わった本を、自分でなんとなく値段つけて、本屋さんの実店舗の棚をひと棚いくらで借りて、ディスプレイ&販売する、という。
・#egamidayの貸棚書店 – 検索 / X
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・#egamidayの貸棚書店 – egamiday3+
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場所は烏丸丸太町近くの「こもれび書店」(https://komorebibook.theshop.jp)さんです。
なお、シェア型書店・貸棚書店とは何かについては省きます、適当にググって下さい。
あと、始めた動機もとりいそぎ省きます、まあ、ちょっと毛色の違うやったことないことをしてみたかったとか、物理的に蔵書を整理できるならしたいとか、そのくらい。やってみて感じたことも、人と本との向き合い方はもっと千差万別だなあとか、読み終わったら売ればいいと思うと家に本が増えないので躊躇無く買えるとか、ふだん買わない本をシェア型や独立系の書店では買いたくなる不思議とか、いろいろありますけど、まあまた別の話として。
本題としては、始めてから1年ちょっと経って、これまで棚に出した本や実際に売れた本についてのデータをちまちまExcelにメモしてたら、なんかおもしろそうなことがわかりそうだったりわからなさそうだったりしたので、なんちゃって分析をしてみた、みたいな感じのことです。
もちろん、期間が短く冊数が少なく規模が小さいのと、egamidayさんは統計の基礎的な教育も特に受けずにここまで来てしまった残念さとで、たぶんだいたいが思い込みの産物というか、なんか適当に数字いじくってぶつくさ言ってるよ、くらいの眉唾だと思ってください。自分的には、いつもと違う角度から本のことを見たり考えたりできて、ほんの真夏の夜の夢くらいにおもろかったかなという感じです。
●全体
期間: 2023年6月末~2024年7月末(1年1ヶ月)
棚に出した全冊数: 70冊
売れた全冊数: 31冊
売れた率: 44.3%
あ、こんなもんですよ?
むしろ半分弱くらいは売れてたんだと思って、数字見てちょっとびっくりしたくらいです。
もちろんお家賃のほうが倍くらいかかってるし、そもそもは”稼ぐ”ための活動ではない、時間とやる気を消費してブログで何か書いて発信してるのと特に大差はないやつです。
ただこのあと、何がどう売れたのかちまちま考えるてるんですが、それは、なんていうのかな、「売りたい」「売上をあげたい」という意味で考えているわけではなく、どうしたら本が読者に届くんだろう、リーチするんだろう、あるいは人は本に何を求めてるんだろう、的な、いつもの図書館屋さん目線で考えてるやつだと思っていただいたらいいかなと。
●どういうカテゴリの本が売れるのか?
で、売れた本・売れなかった本を、カテゴリ別に集計しました。
なおここでは極私的便宜的に「エンタメ」「文芸」「実用」「教養」「学術」というふうにわけました、優等生の図書館司書ならNDC分類とかするんでしょうが、我が輩はNDCなんか信用してないよという不良司書なので。
カテゴリ | 棚に出した冊数 | 売れた冊数 | 売れた率 | (参:値引率) |
エンタメ | 8 | 3 | 37.50% | -50.90% |
文芸 | 29 | 10 | 34.50% | -65.10% |
実用 | 2 | 1 | 50.00% | -46.50% |
教養 | 17 | 10 | 58.80% | -55.30% |
学術 | 14 | 7 | 50.00% | -62.00% |
母数少ないながら敢えて言うと、教養・学術のほうがよく売れたんだなという気付きですが、文芸書(小説類)は読み終わってもういらないというリサイクル目的のやつを多めに出しがちなため分母が多くなってしまう、という程度のあれかもしれません。
値引率という謎の参考数字は後述しますが、要は、カテゴリの売れる売れないに値段は関係なさそう、というだけの話です。
●新しい本のほうが売れるのか?
じゃあ売れる売れないに何か違いがあるのかを、とりあえず思いつく要素として、その本が新しいか古いかなのか、説です。
各図書の出版年をデータに加え(ここで一気にお仕事っぽくなった)、新しい順に並べてみたのが以下の図です。
なお、全体の平均は18.7年、最新は0年、最古は56年という感じです。
2024年現在から何年前なのかを「年数」として出し、両端以外はだいたい5年ごとくらいでわけてみました。
年数(範囲) | 棚に出した冊数 | 売れた冊数 | 売れた率 |
1年以内 | 6 | 5 | 83.30% |
2~5年 | 7 | 4 | 57.10% |
6~10年 | 9 | 6 | 66.70% |
11~15年 | 6 | 3 | 50.00% |
16~20年 | 13 | 4 | 30.80% |
21~25年 | 7 | 0 | 0% |
26~30年 | 11 | 3 | 27.30% |
31~40年 | 6 | 2 | 33.30% |
それ以上 | 5 | 4 | 80.00% |
全件の図と、年数範囲の表とをざっと見ると。
1年以内の新刊はよく売れるし、10年くらいまでならちゃんと売れてるほうなんだけど、10年過ぎたころから売れなくなってきて、15年・20年からそれ以上はパタッと売れなくなる。公共図書館なら15年くらいは開架にのこすか迷うけど、20年過ぎてると迷わず閉架、という感じでしょうか。
ところが、30年くらいからまたぽつぽつ売れようにはなってきて、むしろ40年超えの古書が驚くほどヒットしてる、という感じになってる。その理由はわかりません、あきらかに絶版だからなのか、自分の値段付けがゆるくて割安だったのか、そこまで古いのにわざわざ出してるくらいに自分のセレクトが慎重だったのか(まあ、逆に中途半端な年代の母数が多いところに、雑に出したっぽさが見えますが)。
●安い本のほうが売れるのか?
値段付けはegamidayさん自身がやってて、もちろん無経験素人のえいやっですからあてにはなりませんが、単純に安い本が売れて高い本が売れない仮説、が成り立つのか。
以下、値段ごとに売れた率です。
値段(売値) | 棚に出した冊数 | 売れた冊数 | 売れた率 |
100円 | 2 | 1 | 50.00% |
200円 | 8 | 3 | 37.50% |
300円 | 20 | 7 | 35.00% |
400円 | 5 | 2 | 40.00% |
500円 | 12 | 5 | 41.70% |
700円 | 2 | 2 | 100.00% |
800円 | 4 | 1 | 25.00% |
900円 | 5 | 2 | 40.00% |
1000円 | 5 | 2 | 40.00% |
それ以上 | 6 | 6 | 100.00% |
100円から1000円までのあいだで言うと、特に何か傾向が見えそうなところはなくバラバラだな、と思いますが、むしろそれ以上、1200円から1600円という値段を付けた6冊が全部売れてる、というのが驚きでした。
で、これを並べてみてるところでちょっと気になることがあったので、「売れるまでにかかった日数」を各件ごとに記載してみたのが下の図です。「売れるまでにかかった日数」とは、棚に出した日付と売れた日付の差をExcelで出したやつです、記録ってのは取っておくものですね。
で、値段と売れるまでの日数の関係をなんとなく眺めてみたときに、500円以下の「安い」と思える価格帯の本はだいたいさっさと売れてるんだな、という感じです、だいたいが10日以内かひと月程度で、2ヶ月3ヶ月以上かかってるのはぱらぱらとした感じ。一方で800円・900円から1000円以上という価格帯の本の売れ方を見ると、半月程度でさくっと売れてるものと、100日とか200日とかかけてじっくり売れていったものとに、なんとなく二極化してる感があります。へぇー、そーなんだー、程度ですけど。
わかんないですが、1000円を超える高額な本のほうが売れてる理由に思い当たるふしはあって、egamidayさんがなぜそれらの本に1000円超えの高い値段付けをしてるのかというと、ひとつには、すぐには売れてほしくないから。これはあきらかに矛盾というより、たぶん貸棚書店的なところの棚主あるあるなんでしょうけど、売りたくて棚に出してるというよりも、こんな本を自分はオススメしたいんですよという、おせっかいな自己顕示欲によってこういうことをやってるので、オススメしたい本、みなに見て欲しい本ほど、できれば長く棚に逗留していてもらいたく、なので比較的高めの値段を付けちゃうんですよね、これは本職の古書店さんにとってはどういうお気持ちなのかは存じませんが、月何千円でなんちゃってでやってても、キミはせめてしばらくは誰にも買われてくれるなよ、と思える本が出てきちゃう。で、そういうオススメしたい内容の本が、結局は内容的に良いから、時間をかけてでもちゃんと買われていく、ということなのかもしれません、あくまで妄想ですけど。
あともうひとつの高い値付けをしてる理由は、単に新刊で出てすぐの本をすぐ買ってすぐ読んですぐ棚に出すから、新刊かつほぼ新品で強気の値段をつけても売れるだろうと出したら、やっぱり売れた、これが高額でも半月程度でさくっと売れるパターンのやつですね。
●割安な本のほうが売れるのか?
ただ売値が高いか安いかだけで判断してもしょうがなく、モノには相場というものがあり本には定価というものが(日本には)あるので、どれくらい割安になってるか、どれくらい値引きされているかで、売れる売れないが変わってくるのか。
今回は、その本の「定価」に比べて売値が何割引か、を出しました。棚に出してる本の多くが絶版品切れ入手困難、要は定価で書店から入手できないようなものが多いので、じゃあそうなると古書店とかアマゾンマーケットプレイスの相場と比較して割安かどうかを調べたほうがいいんじゃないか?という説もあるとは思うのですが、そんな相場がわかるような知見が自分にあるくらいだったら、えいやっで値付けしたりしないし、そもそも貸棚みたいにまどろっこしいことせずに自分で出店できちゃうじゃないですかね。それより、そもそもこういうシェア型書店にわざわざ来て本買おうとする人が、いちいち古書店の相場を気にしたりアマゾンやブックオフの値段をスマホでちまちま確認するとは思えない、おそらく多くの人が判断するとしたら、手に取ったその本自体に印字されている定価と比べて、値札の値段がどれくらい安いか、くらいなんじゃないかなと思うので、定価と比べる、というやり方でとりあえずは充分なんではないかと。
以下、定価と比較した値引率です。
値引率(範囲) | 棚に出した冊数 | 売れた冊数 | 売れた率 |
0~10%台 | 2 | 1 | 50.00% |
20%台 | 4 | 3 | 75.00% |
30%台 | 6 | 3 | 50.00% |
40%台 | 7 | 4 | 57.10% |
50%台 | 18 | 8 | 44.40% |
60%台 | 8 | 4 | 50.00% |
70%台 | 11 | 4 | 36.40% |
80%台 | 14 | 4 | 28.60% |
これも、へぇーそーなんだーと思いましたが、値引率が40%台以下、つまり定価の半額よりも高い値段の本のほうがわりとよく売れて、逆に半額以下になると売れにくくなり、70%・80%台の大幅に値引きしているような本はあまり売れてない、という。
正直、買う側の立場にしてみれば(一瞬でそっちの立場にシフトできる)、こんだけ安く売ってるのって、いらなくて出してるんだろうなあというふうに見えちゃうので、まあそりゃそうかという感じです。逆に言うと、これはこのくらいの値段を付けても買われるだろうというようなオススメの本やそもそも売れそうな本は、やっぱり買われる、そりゃそうか。
あと値段を付ける時の考え方として、買おうか買うまいかどうしようかくらいのふわっとした本もあれば、いやーこの本を買おうというきとくなお方はたぶん値段がいくらであっても買うんだろうなあ、という本もあって、それが売値にも売れた率にもなんとなく反映するんだろうな、ていうくらいです。
ちなみに、最も出した本の冊数の多かったのは値引率が50%台のもので、かつ全体の平均値引率が60.0%、要するに、半額よりちょっと安いくらいの値段を付けがちなんだな、自分は、という気付きでした。それでいて半額が売れる売れないのラインなんだったら、次からは高めにしたほうがいいんだろうか。しかしだからと言って、値引率70%・80%で売れなかったような本を、20%・30%くらいに高値で出したら売れるようになるのか、というとそうは到底思えないので、うーん、まあ、わかんないですね結局。
ただ、「売値が高くても時間をかけて売れている」「値引率が低い本が売れている」というような傾向がぼんやりと見えて、あらためて、ここはブックオフでもアマゾンでもない、そういうところに意味がある、ということがなんとなくわかりますね。
●面陳したら売れるのか?
だったら、こっちからオススメして本のほうが売れるのか?という説ですが。
egamidayさんの売り場である棚は、↑この写真のように、背表紙だけ普通に見えるスペースと、表紙を面陳して置いているスペースとを半々でレイアウトしてます。こういうレイアウトも棚主さんによってさまざまです、あたしはそのへんのセンスが砂漠なのでこのあたりが限度ですが。
でもまあさすがに面陳してるほうが売れやすいんじゃないの?とは思うので、一応確かめてみました。何を面陳してたかしてなかったかは、棚に新しい本を出しに行くたびに毎回その棚を写真に撮ってTwitterにあげていたので、それを見るとわかります、記録は取っておくものですね。
記録をもとにカウントすると、以下のようなことがわかりました。
売れた本 31冊 = 面陳した本 19冊 + 面陳しない本 12冊
面陳した本 36冊 = 売れた本 19冊 + 売れなかった本 17冊
これでわかることは。
面陳したからと言ってよく売れるとは限らない。
けれども、売れた本は面陳した本のほうが多い。
ということくらいです。
と考えたところで疑問に思ったのが、じゃあ、この「面陳しなかったけれども、売れた本」12冊ってのは、どういう理由からなんだろう、ということです。なんだ、この「不思議の勝ちあり」は、と。
で、この12冊に何か傾向があるのかしら、と思って売値や値引率や刊行年やをいろいろ調べてみたのですが、どれもバラバラで特徴がこれといって無い。唯一傾向らしい傾向があったのが、本記事最初のカテゴリについてです。
面陳なしで売れた本12冊のうち、9冊が学術・教養カテゴリ(75.0%)。というのがわかって思い当たるのは、学術・教養分野の図書の多くが、タイトルにその内容が端的に表現されている、つまりは背表紙だけでも何の本かが容易にわかる、ということでしょうか。まあ確かに、棚に出す側としてもジャケットが映える文芸書をおもてに出しがちで、逆に学術・教養分野の本なら買う人はタイトルだけでも見つけるでしょうと思うので、そういうことなんだろうな、とは思います。
なお、棚に面陳のほかに、新しく本を棚に出したときに投稿するTwitterにその書影を載せるものと載せないものとがあり、書影を載せたら売れるのか?という説も考えましたが。
売れた本 31冊 = 書影をtweetした本 18冊 + しない本 13冊
書影をtweetした本 37冊 = 売れた本 18冊 + 売れなかった本 19冊
たいした傾向もないので、だいたい同じです。
●本の紹介を書いたら売れるのか?
いや、オススメといったらこっちですよね、と。
egamidayさんはいわゆるポップのようなものを付けてない(少なくともいまのところは)のですが、出店初期のころはオススメ本にこういうQRコードを付けてました。
これをお手持ちのスマホで読み取ってもらうと、Twitterに投稿したオススメ紹介文が読める、っていう。
ただ、初期のころちょっとやって以降は、もうずっとご無沙汰というかやってないです。やらなくなった理由は、ちょっとやってみて、あ、これあんまり関係無いんだな、というのがなんとなくわかったのと、他に書かなきゃいけない文章がいくらでもあったのと、QRコード印刷して持っていくのが存外にめんどくさかったのと、あとは、これをやり始めて直後くらいにTwitterが仕様変更して、ログインしないと投稿を読めなくなってしまったという「全部イーロン・マスクのせいだ」案件です。
で、一応集計すると。
売れた本 31冊 = 紹介を書いた本 4冊 + しない本 27冊
紹介を書いた本 8冊 = 売れた本 4冊 + 売れなかった本 4冊
これはもうなんというか、数が少なすぎて何も言えず、言えるとすれば、やる気があるならもっと書きなさい、ということくらいです。
●どういうつもりで出品してるのか?
これ、関係あるかなーと思って初期から意識してたカテゴリ分けがあったんですが、やってみたら一番関係無くって、お焚き上げしておきます。
本を棚に出すときに、egamidayさん的には大きく分けて3種類の腹づもりがあって、それが「オススメ」「リサイクル」「売れそう」です。
(A)オススメ
この本面白いんですよ、オススメなんですよ、というのをこの棚に出して発信し、興味を持ってもらいたい、というつもりで出す本。なおこのつもりで置く本は、もとから複本を持ってたか、複本を調達して置いてある。
(B)リサイクル
もう読み終わったので、別の誰かに譲れるな、という本。
なお原理的にはすべての本がこれに該当するはずですが、意図的にそういうつもりである、という意。
(C)売れそう
棚に出して売れそう、お客が買っていきそうな本っていうのは、こういう本なんじゃなかろうか、という商売っ気推測のもとで出す本。
なお排他的な要素ではないので、AでありCであるとか、AでありBでありCでもある、とかはもちろんあり得るわけです。
これをふまえて。
棚に出した冊数 | 売れた冊数 | 売れた率 | |
(A)オススメ | 21 | 10 | 47.60% |
(B)リサイクル | 44 | 20 | 45.60% |
(C)売れそう | 33 | 18 | 54.50% |
何か言えるほどのことはなかったのかな、という感じです。
以上。
●結論のようなもの
結論のようなものは、特にないです。
売れる本は売れ、売れなかった本は売れなかった。
いつかは売れる、かもね。
そのくらいじゃないでしょうか。
そのくらいであるということが、あらためてわかって、おもろかった、という感じです。
まあ、あれです。
本は、売れる売れないは関係ない、一冊一冊を愛でましょう。