恩田陸『酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記 : イギリス・アイルランド』
恩田陸. 酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記 : イギリス・アイルランド. 講談社, 2005.
海外へ行く時に必ず持っていく本、その2です。
これも紀行のうちですが、とにかく酒が好きで、パブとギネスの国であるイギリス・アイルランドへこれから行こうとするんだけど、とにかく飛行機が嫌いで乗りたくない、という恩田陸の、苦悶あふれる想いが延々と綴られるエッセイです。
なにせ、飛行機に乗りたくないのに乗らなければならない、その恐怖、苦しみ、うらみつらみ、現実逃避しようとするあれやこれやが冒頭から続くのですが、もちろんそこは恩田陸の人の文章力ですからコミカルさも満載だし、客観的な自己分析も説得力あるし、映画文学音楽の教養に根ざした話の分厚さもあって、ぐいぐい読ませにかかってくるわけです。
で、到着すれば、とにかく酒が美味い、読んでるだけでこんなにも酒が美味い酒場エッセイパート。そしてイギリスやアイルランドの土地や名所や人々を描く旅行エッセイパートもまた、読んでるだけで旅がしたい。ストーンヘンジ周りのあれこれを描きだす目と言葉、もそうだけど、タラの丘での幻想瞑想あたりなんかは、作家の脳内にダイブさせてもらえたようなぜいたくな文章だなと。
そしてなにより『小心者の海外一人旅』と共通するのが、これが著者初めての海外旅行ということであり、旅行事務をめぐるあれこれをはじめとする海外あるあるや旅先どたばたが全体を通していて、コミカルであったりじんみりしたり。そういう、旅先の非日常も日常もひっくるめて、ああ、この人が飛行機への恐怖をおしきってでも旅に出てくれて、そして書いて読ませてくれて、ほんとによかったなあ、と(もちろん恐怖部分は人ごととして)思えるわけです。
ごめんなさい、実はというかたぶん、恩田陸さんの他の小説類ってたぶん読んだことがないのですが、この1冊はやはり何度読んでもいつ読んでも飽きない、”旅に出させろ”力が激高のお気に入りです。旅が好きで、酒が好きなら、(飛行機は問わず)まちがいなく好きなやつだと思います。
単行本と文庫版がありますが、脚注のおもしろさを味わうという意味では見やすい単行本がおすすめではあります。
恩田陸. 酩酊混乱紀行『恐怖の報酬』日記 : イギリス・アイルランド. 講談社, 2005.
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