「海外の日本研究と日本図書館」に関する2023年7月~11月の動向レビュー — EAJRSルーヴェン大会、EAJS参加者が見た日本研究の傾向、アジアで取り残される日本映画 他 ( #本棚の中のニッポン )
5ヶ月分のまとめとして。
総じて、いろいろ批判的なことをあちこちから言われている記事が多かったですが、これはもちろん「言ってもらえているうちはまだ良い」ということで。
■EAJRS
2023年9月13~16日の日程で、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)において、EAJRS年次大会が開催されました。
・EAJRS – 2023 Leuven
https://www.eajrs.net/2023-leuven
プログラムから、各発表のプレゼン資料・動画などへのリンクあり。
・E2647 – 第33回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告> | カレントアウェアネス・ポータル
https://current.ndl.go.jp/e2647
・Conference Report: European Association of Japanese Resource Specialists (2023)
https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Conference-Report-EAJRS-2023
なお、こちらのミニパネルをおこないました。
・「未来を拓く知識と技術:ChatGPT・AIリテラシー・デジタルヒューマニティーズ (パネル)」
https://www.eajrs.net/forging-knowledge-and-technology-future-2023
■デジタルアーカイブ&デジタルヒューマニティーズ
●Sex, Migration, and Reimagining Modernity from the Transpacific Underground
・「Japanese Studies Spotlight: Sex, Migration, and Reimagining Modernity from the Transpacific Underground」
https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Japanese-Studies-Spotlight-Modernity-from-the-Transpacific-Underground
●The CDDP Great Kantō Earthquake Project
・「Japanese Studies Spotlight: The CDDP Great Kantō Earthquake Project: A Collaborative Mapping Project」
https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Japanese-Studies-Spotlight-The-CDDP-Great-Kanto-Earthquake-Project
●Grassroots Operations of the Japanese Empire
・「Japanese Studies Spotlight: Grassroots Operations of the Japanese Empire」
https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Japanese-Studies-Spotlight-Grassroots-Operations
●Noh as Intermedia
・「Japanese Studies Spotlight: “Noh as Intermedia”: An Interactive Exploration of the World of Noh Theatre」
https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Japanese-Studies-Spotlight-Noh-as-Intermedia
●キリシタン関連デジタルツール・プロジェクト一覧(キリシタン・バンク)
https://kirishitanbank.com/repository/
■ e-resource&レファレンス&メタデータ
●BULACのe-resource講読停止
BULACがジャパンナレッジや朝日新聞などのe-resourceをやめる??
・Suspension des abonnements aux ressources numériques à compter de janvier 2024(BULAC)
https://www.bulac.fr/suspension-des-abonnements-aux-ressources-numeriques-compter-de-janvier-2024
●日本史用語翻訳グロッサリー・データベース
・The Online Glossary of Japanese Historical Terms
https://www.hi.u-tokyo.ac.jp/collection/digitalgallery/glossary/en/
「外国語で日本史研究を行う際の補助ツールとして、前近代日本史に関する史料用語・研究概念などの外国語訳・説明を集成し、検索可能にしたもの」
●OCLCの機械学習による重複書誌判定
・[Heb-NACO] Fwd: Identifying duplicate records using machine learning—non-Latin data labeling for WorldCat
https://www.mail-archive.com/heb-naco@lists.osu.edu/msg01772.html
「In our next phase, we’re expanding the focus to records that include non-Latin script describing print books, e-books, audiobooks, journals, and videos published in Chinese, Japanese, Korean, Thai, Arabic, Hebrew, and Russian. 」
●「OCLC WorldCatでつくる図書館の未来 目録データの国際標準がつなぐ日本と世界」
図書館総合展にて紀伊國屋書店主催のフォーラム(2023/10/25)。
早稲田・慶應からはWorldCatと共同目録、日文研からはWorldShare ILLについて報告しました。
当日動画が下記にて公開されています。
・OCLC News 第71号 (2023図書館総合展OCLCフォーラム特集号2) | 教育と研究の未来
https://mirai.kinokuniya.co.jp/2023/11/47140/
●目録とDEI
・Lee, Jian and Hill, Keiko (2023) “Equity, Diversity, Inclusion, and Anti-Racism Engagements at the UW Libraries: A Report on a Presentation Given at the Committee on Technical Processing Session, March 23, 2022,” Journal of East Asian Libraries: Vol. 2023: No. 177, Article 4.
https://scholarsarchive.byu.edu/jeal/vol2023/iss177/4
「Journal of East Asian Libraries」No.177所収。
ワシントン大学図書館における、公平性(Equity)、多様性(Diversity)、包摂性(Inclusion)、反人種差別(Anti-Racism)にかかわる活動の報告。
カタロギングについて、”有害な”LCSHとして日系人強制収容についてのワードの例など。
「examples of problematic and harmful LCSH, such as “Illegal aliens” and “Japanese American–Evacuation and relocation, 1942–1945.” The first term has been replaced by “Noncitizens” and “Illegal immigration” and the second term has been revised to “Japanese Americans–Forced removal and internment, 1942–1945.”
■日本研究
●EAJS参加者が見た日本研究の傾向
・日本大好きで留学した欧州の若手研究者たちが「日本ヤバイ」と感じた理由(栗田 路子) | FRaU
https://gendai.media/articles/-/118165
「若手を指導する立場にある欧州在住の中堅学者に聞けば、日本研究において「社会問題」が研究テーマに急増したのは、「2010年代頃」からだという。靖国や慰安婦、在特会などが国外メディアでも伝えられると、大学院の学生たちは、差別やヘイト、分断や右傾化などに関心を持ち始めた。」
・偽情報や陰謀論…「日本好き」欧州の若き研究者が「日本社会も劣化している」と語る理由(栗田 路子) | FRaU
https://gendai.media/articles/-/118166
「「日本社会の劣化」は研究対象に最適」「彼らは日本を研究してはいるが、研究テーマが「日本」に限定されているわけではない。現在世界的にメタ現象として進行している「新右翼」や、それと「デジタルメディアの関係」、さらにいえば、AIなどのハイテクによる「デジタル・トランスフォーメーションと社会との相互ダイナミズム」がテーマなのだ。アメリカやヨーロッパの国よりも、日本のそれを分析した方が、より顕著に見える」
・https://twitter.com/cm3/status/1692545874251952197
(EAJSにて)「たくさん Abe に言及する発表があって、その多くがある程度の前提を共有していて、一方で、日本の今年の政治学や社会学の年次大会では一つもタイトルに冠しているものはないというところが、自国のことを自国の人間が自国で語ることの難しさを表している」
●ラムゼイヤー論文問題
・Scholarly and Public Responses to “Contracting for Sex in the Pacific War”: The Current State of the Problem (2023年9月)
ラムゼイヤー論文について、掲載雑誌(IRLE)が「撤回せず、反論文を掲載」と結論したタイミングでの、論点整理とのこと。
https://sites.google.com/view/concernedhistorians/the-current-state-of-the-problem-sept-2023
・Yoshimi, Yoshiaki. “Response to “Contracting for sex in the Pacific War” by J. Mark Ramseyer”. IRLE, Vol. 76, Dec 2023.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0144818823000364
ラムゼイヤー氏論文への反論文。同じ雑誌(IRLE)上に掲載されたもの。(IRLEによる方針の結論が出るのにここまでかかっている)
●その他
・海外の日本中世史研究 [978-4-585-32535-2] – 3,520円 : 株式会社勉誠社 : BENSEI.JP
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=103694
・シュミット堀佐知編『なんで日本研究するの?』(文学通信) – 文学通信
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-86766-019-5.html
・第5回人間文化研究機構日本研究国際賞受賞者の決定について | 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
https://www.nihu.jp/ja/news/2023/20231101-0
「柴谷 方良(SHIBATANI Masayoshi)氏
ライス大学ディディ・マクマートリー人文学教授・言語学名誉教授/神戸大学名誉教授」
・Professional Development Series: “Ask the Editors: Publishing Your Book in Japanese Studies” (Modern Japan History Association)
https://mjha.org/event-5420134
・https://twitter.com/bsbakery/status/1694961713777648031
(Hoyt Long『The Values in Numbers』について)
「青空文庫そのものの記述については、不十分な箇所が散見されてもいて、(研究書としては)もう少し丁寧な調査と取材が欲しかった」
■日本資料
●オハイオ州立大学日本語地図コレクションに関するプロジェクト
・Lost in Translation – Western Association of Map Libraries
https://waml.org/waml-information-bulletin/volume-54-number-3/lost-in-translation/
図書館の所蔵資料を学生等の専門性で活用したプロジェクト。
●The Japan Art Catalog Project
・Japanese Studies Spotlight: The Japan Art Catalog Project: Facilitating Access to Art Materials at the Smithsonian and Beyond
https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Japanese-Studies-Spotlight-The-Japan-Art-Catalog-Project
■催し
●EAJS2023年ゲント大会
・2023: Ghent, Belgium – EAJS
https://eajs.eu/eajs-2023-conference/
●東アジアと同時代日本語文学フォーラム
・第11回東アジアと同時代日本語文学フォーラム バリ大会 ポスター
https://eacjlforumweb.wixsite.com/eastasiaforum/single-post/%E7%AC%AC11%E5%9B%9E%E6%9D%B1%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%A8%E5%90%8C%E6%99%82%E4%BB%A3%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E6%96%87%E5%AD%A6%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%A0-%E3%83%90%E3%83%AA%E5%A4%A7%E4%BC%9A-%E3%83%9D%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC
●Japanese Rare Book Workshop on Edo Printed Books (2023)
https://www.eastasianlib.org/newsite/cjm/workshops/#japanese-rare-book-workshop-on-edo-printed-books-2023
2023年8月9日から11日までワシントンDCの米国議会図書館(LC)で開催された「江戸版本に関する日本貴重書ワークショップ」について、JEALで報告されている。
・Marra, Toshie and Noguchi, Setsuko (2023) “The 2023 Japanese Rare Book Workshop on Edo Printed Books: A Report,” Journal of East Asian Libraries: Vol. 2023: No. 177, Article 5.
https://scholarsarchive.byu.edu/jeal/vol2023/iss177/5
■文学・翻訳
・「自分とは無関係なのに、親密なものを感じる」……海外の作家たちが語る現代日本文学 : 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/articles/20231120-OYT1T50069/
「作家の村上春樹さんが、世界への日本文学の受け入れられ方に与えた影響を探る国際シンポジウム「世界とつながる日本文学~after murakami~」が10月28日、早稲田大で開かれた」
「村上文学に触れて育った新しい世代が、現れている」
・開催報告:Dr. Christina Yi 講演会「「日本語」文学に対する批評的アプローチ: 金石範の作品に関して」 – スーパーグローバル大学創成支援「Waseda Ocean 構想」
https://www.waseda.jp/inst/sgu/news/2023/09/06/26264/
「従来の「日本文学」に代わる概念として「日本語文学」という区分が文学研究の領域で注目を集めるようになった背景を概説し、「日本語文学」という概念そのものが、それが解体しようとする、中心と周辺のあいだの非対称的な権力関係を再生産してしまう危険についても言及」
■文化・エンタメ
・北米のコミックス/マンガ市場 2022年は過去最大の3200億円
http://animationbusiness.info/archives/15062
・「日本漫画100選」海外で国別にリスト化…米・フランス・スペインでスタート、順次拡大へ : 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/articles/20231019-OYT1T50117/
「日本の漫画を世界に広めるため、文化庁は来年度、海外の図書館が蔵書の目安にできる100作程度の推薦リストを国別に作る方針を決めた」
「各国の図書館では利用者から日本の漫画に関する問い合わせが増え…一方で、国際的評価が定着している漫画は限られ、各国の司書の知識には差があり、十分に日本の漫画の魅力を伝えきれない」
「文化庁文化経済・国際課では「日本からの押しつけにならない形にしたい」としている」
・ウクライナ南部で日本アニメ店「皆に安心を」|社会|セレクト記事|京都新聞
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1138901
・Emmanuel Macron apporte son soutien à un projet de musée du jeu vidéo lancé par un youtubeur
https://www.lemonde.fr/pixels/article/2023/11/05/emmanuel-macron-apporte-son-soutien-a-un-projet-de-musee-du-jeu-video-lance-par-un-youtubeur_6198341_4408996.html
マクロン大統領がユーチューバーのゲーム博物館プロジェクトを支持、クラウドファンディングで基金170万ユーロ。
・「ハウルの動く城」モデルの街に日本の漫画ミュージアム フランス東部コルマールに2027年:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/262193
「スタジオジブリの作品とゆかりがある仏有数の観光都市コルマールで2027年の開業を予定。整備を進めるアルザス欧州日本学研究所(CEEJA)は「国内外の観光客に向け、日本のポップカルチャーを発信する拠点にしたい」」
・「アジアで取り残される」日本映画が直面する現実 韓国映画界トップが日本の映画の未来を危惧 | 映画・音楽 | 東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/716369
「パク委員長によると、日本が不参加の理由は、7カ国のような国公立の映像機関がなく、窓口となるカウンターパートナーがいないことにより、連携が取れなかったことだ」
「事前に日本に参加を求めるため、文化庁やユニジャパン(日本映像コンテンツの海外展開支援を担う公益財団法人。東京国際映画祭を開催)にアプローチしたが、担当部署がわからないままやりとりが途絶えていた」
「窓口がないために連携ができなかった日本の現状について「国外に対して、窓口が明確になっていることは重要です。外から見ると、どことどうコンタクトを取ればいいかわからない。日本がそういう状況にあることを痛感しました」と声を落とす」
■社会問題
・Japanese research is no longer world class — here’s why
By Anna Ikarashi, Nature 623, 14-16 (2023)
https://www.nature.com/articles/d41586-023-03290-1
「日本の研究はもはや世界レベルではない」とのこと。
・ノーベル賞教授の記者会見に反響 見抜かれた未熟な日本の女性参画 | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20231012/k00/00m/020/082000c
「日本の出生率の低さや男女の賃金格差に言及」、女性を労働力として働かせるだけでは解決にならない、アメリカが長い時間をかけて価値観を変えていったのに対し、日本では急速な変化に職場が追いついていない、とのこと。